・・・その着こなしも風采も恩給でもとっている古い役人という風だった。蕗を泉に浸していたのだ。(青金の鉱山できいて来たのですが、何でも鉱山の人たちなども泊 老人はだまってしげしげと二人の疲れたなりを見た。二人とも巨きな背嚢をしょって地図・・・ 宮沢賢治 「泉ある家」
・・・ * 三疋がカン蛙のおうちに着いてから、しばらくたって、ずうっと向うから、蕗の葉をかざしたりがまの穂を立てたりしてお嫁さんの行列がやって参りました。 だんだん近くになりますと、お父さんにあたるがん郎がえるが・・・ 宮沢賢治 「蛙のゴム靴」
・・・ 中山街道はこのごろは誰も歩かないから蕗やいたどりがいっぱいに生えたり牛が遁げて登らないように柵をみちにたてたりしているけれどもそこをがさがさ三里ばかり行くと向うの方で風が山の頂を通っているような音がする。気をつけてそっちを見ると何だか・・・ 宮沢賢治 「なめとこ山の熊」
・・・まことに、これらの流行色調は絢爛をきわめ、富貴をほこるものであるが、これを見る私たちの一方の目は、冬に向うのに純粋の毛織物は十一月から日本で生産されない。メリヤスもなくなる。木綿も節約せよ。食糧も代用食に訓練しておけ。子供の弁当に大豆類を多・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・ 支那古来の聖人たちは、いつも強権富貴なる野蛮と、無智窮乏の野蛮との間に立って彼等の叫びをあげてきた。「男女七歳にして席を同じゅうせず」しかし、その社会の一方に全く性欲のために人造された「盲妹」たちが存在した。娘に目があいてるからこそ客・・・ 宮本百合子 「書簡箋」
・・・ 富貴な美しいモナ・リザを描くとき、レオナルドがどんなに心をつくして画室をかざり、音楽を奏させ、彼女をたのしくあらせようとしたかという情景は、レオナルド・ダ・ヴィンチを主人公としてメレジェコフスキーが書いた「先駆者」という歴史小説に詳細・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・由にゆき来し、いろいろな作家が、いろいろの鏡、いろいろの角度で、内と外からそれぞれの国の生活を互に映し、互に表現し合い芸術化してゆく愉しさこそは、この地球に生れ合わしたそれぞれの時代の人間の真の歓喜と富貴であると思う。 アンデルセン・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・富豪の思いものとなったのが本当なら、もしや、あのおけいちゃんも、粋と富貴をとりまぜた装で私などのわきは、すーと通りすぎてゆく心になって今日を生きているのでもあるだろうか。 女学校時代の友達というものも、おけいちゃんとはちがう形ではあ・・・ 宮本百合子 「なつかしい仲間」
・・・小林ひさえ、「蕗のとう」「あらし」山代巴、「遺族」「別離の賦」「娘の恋」竹本員子、「流れ」宮原栄、「死なない蛸」「朝鮮ヤキ」譲原昌子。その社会的基盤のひろさ、多様さにふさわしく、これらの婦人たちは人民の文学としての発言の可能を示しはじめてい・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・そういうことから私たちは漱石が権門富貴に近づくことをいさぎよしとしない人であるように思い込んでいた。またそれが私たちにとって漱石の魅力の一つであった。しかし漱石は、いつだったかそういうことが話題になったときに、次のような意味のことを言った。・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫