・・・それから萩原君を、町の通りの郵便局に訪ねた。ちょうど、執務中なので、君の家の泉州という料理屋に行って待っていた。萩原君はそこの二男か三男で、今はH町の郵便局長をしているが、情深い、義理に固い人であるのは、『日記』の中にもたびたび書いてあった・・・ 田山花袋 「『田舎教師』について」
・・・ん呼做したる仮作譚を速記という法を用いてそのまゝに謄写しとりて草紙となしたるを見侍るに通篇俚言俗語の語のみを用いてさまで華あるものとも覚えぬものから句ごとに文ごとにうたゝ活動する趣ありて宛然まのあたり萩原某に面合わするが如く阿露の乙女に逢見・・・ 著:坪内逍遥 校訂:鈴木行三 「怪談牡丹灯籠」
・・・盗む狐追ふ声や麦の秋狐火やいづこ河内の麦畠麦秋や狐ののかぬ小百姓秋の暮仏に化る狸かな戸を叩く狸と秋を惜みけり石を打狐守る夜の砧かな蘭夕狐のくれし奇楠をん小狐の何にむせけん小萩原小狐の隠れ顔なる野菊かな狐火・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・そして、その声は大変大きくつよく響いているのだけれど、現実には、この間、『都新聞』に詩人の萩原朔太郎氏の書いていられたような青年の無気力という現象があらわれてもいる。 ここに極めて入りくんだ現代の青春の問題が潜められているのではないだろ・・・ 宮本百合子 「生活者としての成長」
・・・この章は詩の形式と韻律の専門的面にかぎられて考察されているのであるが、例えばその文中で萩原朔太郎氏が「日本人の民族的感情から」反省して「しらべ」「すがた」「もののあわれ」等の内面的旋律までを考えて日本古来の詩形を不朽な規範と考える態度に対し・・・ 宮本百合子 「ペンクラブのパリ大会」
出典:青空文庫