・・・この寺の先々住の日照というが椿岳の岳母榎本氏の出であったので、俗縁の関係上、明治十七、八年ごろ本堂が落成した時、椿岳は頼まれて本堂の格天井の画を描いた。 椿岳はこの依頼を受けると殆んど毎日東京の諸寺を駈巡って格天井の蟠龍を見て歩いた。い・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・見ると或地方で小学校新築落成式を挙げし当日、廊の欄が倒れて四五十人の児童庭に顛落し重傷者二名、軽傷者三十名との珍事の報道である。「大変ですね。どうしたと言うんでしょう?」「だから私が言わんことじゃあない。その通りだ、安普請をするとそ・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・ この橋は、おおむかしの慶長七年に始めて架けられて、そののち十たびばかり作り変えられ、今のは明治四十四年に落成したものである。大正十二年の震災のときは、橋のらんかんに飾られてある青銅の竜の翼が、焔に包まれてまっかに焼けた。 私の幼時・・・ 太宰治 「葉」
・・・それほどでなくても、たとえば議院新築落成式の日に、過去の議会におけるいろいろな故人の演説の断片を聞くことができても多少の感慨はあるであろう。 もしも、レコードと現場の放送との継ぎ目を自由に、ちょうどフィルムをつなぐようにつなぐことができ・・・ 寺田寅彦 「ラジオ・モンタージュ」
・・・ かくのごとく予期せられたる書斎は二千円の費用にてまずまず思い通りに落成を告げて予期通りの功果を奏したがこれと同時に思い掛けなき障害がまたも主人公の耳辺に起った。なるほど洋琴の音もやみ、犬の声もやみ、鶏の声、鸚鵡の声も案のごとく聞えなく・・・ 夏目漱石 「カーライル博物館」
・・・わずか十五分の間にそうして決められた自分たちの一生の方向、それはピエールが不慮の死をとげて八年を経た今日、あれほどピエールが望んでいてその完成を見なかった研究所が落成されている今日、マリアの心を他の方向に導きようのない力となって作用したので・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・ 江井のことについて心配して居ましたが、向島の西村の土地が空であったので、そこへ四十室ばかりのアパートが落成し、江井はその管理人兼十何年か後の所有者として生活しはじめました。 車はプリムスをドイツ製オープンのアドラーに代え、国男自身・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・新議事堂落成祝のため。〔欄外に〕○皇太子の生れてよろこびの花電車春日町のところで会った。こちら自動車。ダーやられたとき あの感じを思い出した。 遭遇の場面○新響のかえり。銀座。男二人女一人 ア・・・ 宮本百合子 「情景(秋)」
・・・「小石川区小日向台町何丁目何番地に新築落成して横浜市より引き移りし株式業深淵某氏宅にては、二月十七日の晩に新宅祝として、友人を招き、宴会を催し、深更に及びし為め、一二名宿泊することとなりたるに、其一名にて主人の親友なる、芝区南佐久間町何・・・ 森鴎外 「鼠坂」
・・・それが落成すると、六十一になる父滄洲翁と、去年江戸から藩主の供をして帰った、二十九になる仲平さんとが、父子ともに講壇に立つはずである。そのとき滄洲翁が息子によめを取ろうと言い出した。しかしこれは決して容易な問題ではない。 江戸がえり、昌・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫