・・・西鶴の読み方は、故山口剛氏の著書より多くを得た。都新聞の書評で私のこの書を酷評した人があるが、私はその人たちよりは西鶴を知っている積りである。西鶴とスタンダールが似ていることを最初に言ったのは私であるが、これは他日詳しく論ずる。ただ、ここで・・・ 織田作之助 「わが文学修業」
・・・アナーキストとして有名なクロポトキンには著書『倫理学』があり、マルクス主義運動家時代のカウツキーにさえ『倫理学と唯物史観』の著があるくらいである。ドイツ無産政党の組織者であったラサールには倫理学的エッセイ多く、エンゲルスや、シュモルラーには・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・というのは生と労作は危険を賭し、血肉を削ってしかなされないものであって、一冊のすぐれた著書を世に贈り得ることは容易ではないからである。 過度の書物依頼主義にむしばまれる時は創造的本能をにぶくし、判断力や批判力がラディカルでなくなり、すべ・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・紛も無い彼自身の著書だ。何年か前に出版したもので、今は版元でも品切に成っている。貸失して彼の手許にも残っていない。とにかく一冊出て来た。それを買って、やがて相川はその店を出た。雨はポツポツ落ちて来た。家へ帰ってから読むつもりであったのを、そ・・・ 島崎藤村 「並木」
・・・長兄の書棚には、ワイルド全集、イプセン全集、それから日本の戯曲家の著書が、いっぱい、つまって在りました。長兄自身も、戯曲を書いて、ときどき弟妹たちを一室に呼び集め、読んで聞かせてくれることがあって、そんな時の長兄の顔は、しんから嬉しそうに見・・・ 太宰治 「兄たち」
第一巻 ことしの夏、私はすこしからだ具合いを悪くして寝たり起きたり、そのあいだ私の読書は、ほとんど井伏さんの著書に限られていた。筑摩書房の古田氏から、井伏さんの選集を編むことを頼まれていたからでもあったのだ・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・日本の大きい山椒魚は、これは世界中でたいへん名高いものだそうでございまして、私が最近、石川千代松博士の著書などで研究いたしましたところに依れば、いまから二百年ばかり前に独逸の南の方で、これまで見た事も無い奇妙な形の化石が出まして、或るそそっ・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・主な材料はモスコフスキーの著書に拠る外はなかった。要するに素人画家のスケッチのようなものだと思って読んでもらいたいのである。二 アルベルト・アインシュタインは一八七九年三月の出生である。日本ならば明治十二年卯歳の生れで数え年・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・ロンドンからの便りでは、新聞や通俗雑誌くらいしか売っていない店先にも、ちゃんとアインシュタインの著書だけは並べてあるそうである。新聞の漫画を見ていると、野良のむすこが親爺の金を誤魔化しておいて、これがレラチヴィティだなどと済ましているのがあ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・ 英国人サー・アーノルドの漫遊記、また英国公使フレザー夫人の著書の如きは、共に明治廿二、三年のころの日本の面影を窺わしめる。 わたくしはラフカヂオ・ハーンが『怪談』の中に、赤坂紀の国坂の暗夜のさま、また市ヶ谷瘤寺の墓場に藪蚊の多かっ・・・ 永井荷風 「西瓜」
出典:青空文庫