・・・今日の状況を以て学校の規則を蔑視して自分勝手にしろというのではありません。それは別問題ですが、今の日本の現在の有様から見て、どっちに重きを置くべきかというと、インデペンデントという方に重きを置いて、その覚悟を以てわれわれは進んで行くべきもの・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・は先日魯西亜の国教を蔑視すると云うので破門されたのである。天下の「トルストイ」を破門したのだから大騒ぎだ。或る絵画展覧会に「トルストイ」の肖像が出ているとその前に花が山をなす、それから皆が相談して「トルストイ」に何か進物をしようなんかんて「・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・ 学者をして学問の貴きを説かしめたらば、政事の如きは小児の戯にして論ずるに足らざるものなりといい、政事家もまた学問を蔑視して、実用に足らざる老朽の空論なりとすることならんといえども、これはいわゆる双方の偏頗論にして、公平にいえば、政事も・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・故に下等士族が教育を得てその気力を増し、心の底には常に上士を蔑視して憚るところなしといえども、その気力なるものはただ一藩内に養成したる気力にして、所謂世間見ずの田舎者なれば、他藩の例に傚てこれを実地に活用すること能わず。かつその仲間の教育な・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・拙著『時事小言』の第四編にいわく、「ひっきょう、支那人がその国の広大なるを自負して他を蔑視し、かつ数千年来、陰陽五行の妄説に惑溺して、事物の真理原則を求むるの鍵を放擲したるの罪なり。天文をうかがって吉兆を卜し、星宿の変をみて禍福を憂・・・ 福沢諭吉 「物理学の要用」
・・・日本の封建の伝統が近代日本の心にも伝えている生命への蔑視を、これらの作品はつよく否定して、人間の生きんとする意志を肯定している。「義民甚兵衛」が、「甚兵衛様は笑って死になさった」と数万の群集に賞めたたえられつつ、領主の磔柱の上で生涯一度・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・によって「ブルジョア自由主義もしくは個人主義文学の名によって蔑視され勝ちであった西欧文学についての再検討と、自国文学に対する価値的反省」であるとし、「フランスの行動的ヒュマニズムの変革運動は芸術にあっての自由と、その自由なる芸術的表現の主張・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・そうして道徳と名のつくものを蔑視することに異常な興味を覚えた。宗教は予を制圧する権威でなかったがゆえに好んで近づいたが、しかし何らかの権威を感じなければならない境地までは決してはいって行かなかった。むしろそれを他の権威に対する反逆の道具に使・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
出典:青空文庫