・・・秋になって病気もやや薄らぐ、今日は心持が善いという日、ふと机の上に活けてある秋海棠を見て居ると、何となく絵心が浮んで来たので、急に絵の具を出させて判紙展べて、いきなり秋海棠を写生した。葉の色などには最も窮したが、始めて絵の具を使ったのが嬉し・・・ 正岡子規 「画」
・・・しかし壮烈だとか、爽快だとかいう想像は薄らぐ。それから縦い戦争に行くことが出来ても、輜重に編入せられて、運搬をさせられるかも知れないと思って見る。自分だって車の前に立たせられたら、挽きもしよう。後に立たせられたら、推しもしよう。しかし壮烈や・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・次第に人通が薄らぐので、九郎右衛門は手拭を出して頬被をして、わざとよろめきながら歩く。文吉はそれを扶ける振をして附いて行く。 神田橋外元護寺院二番原に来た時は丁度子の刻頃であった。往来はもう全く絶えている。九郎右衛門が文吉に目ぐわせをし・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
老いはようやく身に迫ってくる。 前途に希望の光が薄らぐとともに、みずから背後の影をかえりみるは人の常情である。人は老いてレトロスペクチイフの境界に入る。 わたくしは医を学んで仕えた。しかしかつて医として社会の問題に・・・ 森鴎外 「なかじきり」
出典:青空文庫