・・・窓の高い天井の低い割には、かなりに明るい六畳の一間で、申しわけのような床の間もあって、申しわけのような掛け物もかかって、お誂えの蝋石の玉がメリンスの蓐に飾られてある。更紗の掻巻を撥ねて、毛布をかけた敷布団の上に胡座を掻いたのは主の新造で、年・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・小さな座敷の窓には柿の葉の黄ばんだのが蝋石のような光沢を見せ、庭には赤いダーリアが燃えていた。一つとして絵にならないものはないように見えた。 飯を食いながら女中の話を聞くと、せんだってなんとかいう博士がこの公園を見に来て、これはたいへん・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・樺の木箱、蝋石細工、指環、頸飾、インク・スタンド。 成程これは余分なルーブルをポケットに入れている人間にとっては油断ならぬ空間的、時間的環境だ。少くともここに押しよせた連中は二十分の停車時間の間に、たった一人ののぼせた売子から箱かインク・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
出典:青空文庫