・・・のアフレコを行うというややこしい形式を試みてドストイエフスキイにヒントを得た人間の対決の可能性を追究し、同時に、近代小説の形式的可能性をデフォルムした。が、サルトルはスタンダールやジイドの終った所からはじめず、彼等がはじめなかった所からはじ・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・日常茶飯事の欠伸まじりに倦怠期の夫婦が行う行為と考えてみたり、娼家の一室で金銭に換算される一種の労働行為と考えてみたりしたが、なお割り切れぬものが残った。円い玉子も切りようで四角いとはいうものの、やはり切れ端が残るのである。欠伸をまじえても・・・ 織田作之助 「世相」
・・・知るということと行うということとに何ら距りをつけないと云った生活態度の強さが私を圧迫したのです。単にそればかりではありません。私は心のなかで暗にその調停者の態度を是認していました。更に云えば「その人の気持もわかる」と思っていたからです。私は・・・ 梶井基次郎 「橡の花」
・・・ 革命は、ひとが楽に生きるために行うものです。悲壮な顔の革命家を、私は信用いたしません。夫はどうしてその女のひとを、もっと公然とたのしく愛して、妻の私までたのしくなるように愛してやる事が出来なかったのでしょう。地獄の思いの恋などは、ご当・・・ 太宰治 「おさん」
・・・私のやったとおりに、おまえたちも行うように心がけなければならぬ。師は必ず弟子より優れたものなのだから、よく私の言うことを聞いて忘れぬようになさい」ひどく物憂そうな口調で言って、音無しく食事を始め、ふっと、「おまえたちのうちの、一人が、私を売・・・ 太宰治 「駈込み訴え」
・・・ただ、私が四十ちかくに成っても未だに無名の下手な作家だ、と申し上げても、それは決して私の卑屈な、ひがみからでも無し、不遇を誇称して世の中の有名な人たちに陰険ないやがらせを行うというような、めめしい復讐心から申し上げているのでもないので、本当・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・事を行うまえに、たのむ、僕にちょっと耳打ちして呉れ。一緒に旅に出よう。上海でも、南洋でも、君の好きなところへ行こう。君の好いている土地なら、津軽だけはごめんだけれど、あとは世界中いずこの果にても、やがて僕もその土地を好きに思うようになります・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ 実験室において行う簡単なる実験においてはこれら条件を人為的に支配し制限し得る便あり。しかも最も簡単なるデモンストレーション的実験においてすら、用意の周到ならざるため、条件のただ一つを看過すれば実験の結果は全く予期に反する事あるは吾人の・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・を考えながら進んで行くところにあるのではあるまいか。 もし世の中に全然新しいものが得られぬとすれば、在来の画の種類の中でこのような「思考の実験」を行うに最も適したものは南画だという事はあえて多言を要しない事と思う。そういう事はもう自分の・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・純粋な電磁的のものかあるいは一部分は速度に無関係なものであるかという問題を決するには、速度種々に異なる電子が電磁場でその径路を変える模様を見れば分るはずであるので、カウフマン以後種々の人が精密な実験を行うたその結果は電子の質量はほとんど全部・・・ 寺田寅彦 「物質とエネルギー」
出典:青空文庫