・・・国家の行政のために死ぬる。文化のために死ぬる。 襟は遺言をもって検事に贈る。どうとも勝手にするがいい。 故郷を離れて死ぬるのはせつない。涙が翻れて、もうあとは書けない。さらばよ。我がロシア。附言。本文中二箇所の字句を改刪・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・ 東京の行政区劃だけは脱け出しても東京の匂いはなかなか脱けない。それでも田無町辺からは昔の街道の面影が保存されているらしい。いくつとなく踏切番のいない鉄路を横切るのは不安である。突然路が右へ曲ると途方もない広い新道が村山瀦水池のある丘陵・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・国郡のごとき行政区画のできるはるかに前から、火山の名が存し、それが顕著な目標として国郡名に適用されたであろうとは思われるが、これも確証することはむつかしい。 山の名の起原についてはそれぞれいろいろの伝説があり、また北海道の山名などではい・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・ ついこの頃の雑誌で見ると、英国の気象局長ショー氏は軍事上に必要な顧問となるために同局の行政的事務を免除され、もっぱら戦争の方の問題に骨を折る事になったとある。これはむしろあまり遅きに過ぎると思われるが、いったい英国の流儀としては怪しむ・・・ 寺田寅彦 「戦争と気象学」
・・・しかし歴史を読んでみると、為政者が君国のために、蒼生のためにその国の行政機関を運転させるには、ただその為政者たるものが誠意誠心で報国の念に燃えているというだけでは充分でないらしく思われる。いかなる赤誠があっても、それがその人一人の自我に立脚・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・官衙や商社における組織や行政の不備や吏員の怠慢に対しても犀利な批評と痛切な助言を加えたい。 これらのあらゆる探究摘発批評の動機が純粋に好意的のものでありたい。不備に対して当事者を攻撃し誹謗する事よりもむしろ当事者の味方になり、そうして一・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・に膨脹して、自己の勢力を張るの具となすならば、政府はまた文芸委員を文芸に関する最終の審判者の如く見立てて、この機関を通して、尤も不愉快なる方法によって、健全なる文芸の発達を計るとの漠然たる美名の下に、行政上に都合よき作物のみを奨励して、その・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・ 右の如くして、文部省はまったく廃するに非ず、文部省は行政官にして、全国の学事を管理するに行政の権力を要するもの、はなはだ少なからず。たとえば、各地方に令して就学適齢の人員を調査し、就学者の多寡をかぞえ、人口と就学者との割合を比例し、ま・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・そして行政整理に生活不安を感じる人々である。鈴木文史朗の「何千万を殺す」という「理想的なやりかた」論はこれら数十万人の人々の心に、鬼畜の言という感銘を与えた。殺すという言葉には、殺されるものに対して、殺すという立場において、自己の生存保持の・・・ 宮本百合子 「鬼畜の言葉」
・・・精神のラッシュにまぎれて、いかがわしい種々の操作が、今日では法律上の名目も失い、行政上の格式も失いながら、なお最下等動物のように執拗に、ぬけめない陋劣さで活躍していることも、人々が直感しているところである。 日本にとって、本当にすがすが・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
出典:青空文庫