・・・そうすると夜の燈火の用意が要る。 電燈はその村に来ているが、私の家は民家とかなりかけ離れた処に孤立しているから、架線工事が少し面倒であるのみならず、月に一度か二度くらいしか用のないのに、わざわざそれだけの手数と費用をかけるほどの事もない・・・ 寺田寅彦 「石油ランプ」
・・・この点はプロフェッショナルな批評家の、苦心の要るところだろうと想像される。 自分等のようなものが絵の展覧会を見るのは、何時でも絵を見て楽しむためである。だから、如何に評判の絵でも、自分に興味のないものは一度きりで見ないで済むし、気に入っ・・・ 寺田寅彦 「二科会展覧会雑感」
・・・「いや、証明するに要るんだ。ぼくらからみると、ここは厚い立派な地層で、百二十万年ぐらい前にできたという証拠もいろいろあがるけれども、ぼくらとちがったやつからみてもやっぱりこんな地層に見えるかどうか、あるいは風か水やがらんとした空かに見え・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・も一つ要る。小さいけれども台にはなる。大丈夫だ。おれははだしで行こうかな。いいややっぱり靴ははこう。面倒くさい靴下はポケットへ押し込め、ポケットがふくれて気持ちがいいぞ。素あしにゴム靴でぴちゃぴちゃ水をわたる。これはよっぽどいいことにな・・・ 宮沢賢治 「台川」
・・・あんまり間には合わないけれどもとにかくその薬はわしの方では要るんでね。よし。いかにも承知した。証文を書きなさい。」 するとみんながまるで一ぺんに叫びました。「私もどうかそうお願いいたします。どうか私もそうお願い致します。」 お医・・・ 宮沢賢治 「ひのきとひなげし」
・・・今日の世の中で勝手気儘に振舞うためには、それだけ金が要る。日本の労働組合は一生懸命に同じ労働に対する男女の同じ賃金を求めて闘かっているけれども、実際に婦人のとる給料はまだ男よりも少ない。しかし女の子の方が身なり一つにも金がかかる。絹の靴下は・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・芝居は訓練された技術者が要る。また照明がなくてはならぬし、場所がなければならぬ。ラジオなら中継すれば野の中へでもみんな固まって聴くことが出来、それに今は農村に於ける集団農場が文化の中心になっている。だから集団農場の倶楽部に皆キノだのラジオが・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・ 自立劇団が大変上手になったけれども新劇のあとを追っているという可能性があるように、絵画のような訓練の要る、材料に費用のかかる芸術では、職場といっても、そこの画家たちはいわゆる労働者ばかりではないでしょう。職場からの絵画のなかに、むしろ・・・ 宮本百合子 「第一回日本アンデパンダン展批評」
・・・「お前頼んでくれんか?」「ええとも、あの餓鬼ったら、仕様のない奴や。」「そうしてくれのう。土産も何もあらへんけど、二円五十銭持ってるのやが、どうにかならんかのう?」「要るもんか。」「要らんか、頼むぜ。」「行こ行こ。」・・・ 横光利一 「南北」
・・・ たとえば、日本画においては、ある一つの色で広い画面をムラなく塗りつぶすということは、非常に技巧の要る事だそうである。しかも日本画家はこの困難な仕事に打ち克とうと努力している。洋画にとっては、ムラなく単色に塗られた広い画面のごときは、美・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫