・・・ 夏の中に、秋がこっそり隠れて、もはや来ているのであるが、人は、炎熱にだまされて、それを見破ることが出来ぬ。耳を澄まして注意をしていると、夏になると同時に、虫が鳴いているのだし、庭に気をくばって見ていると、桔梗の花も、夏になるとすぐ咲い・・・ 太宰治 「ア、秋」
・・・先生ほどのおかたでも、あなたの全部のいんちきを見破る事が出来ないとは、不思議であります。世の中は、みんな、そんなものなのでしょうか。先生は、あなたの此の頃のお仕事を、さぞ苦しいだろうと言って、しきりに労っておいでになりましたが、私は、あなた・・・ 太宰治 「きりぎりす」
・・・弱点を見破る眼力はニーチェと同じ程度かもしれない。しかしニーチェを評してギラギラしていると云った彼はこれらの弱点に対してかなり気の永い寛容を示している。迫害者に対しては常に受動的であり、教えを乞う者にはどんな馬鹿な質問にでも真面目に親切に答・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・然しながら、彼は金銭のそのような魔術性の根源を見破る力はなかった。それどころか、最もその魔術に魅せられたパリにおける地方人の一人であった。バルザックは身をもって金銭という近代文学の一大主題を掴み、終生それについて労作しつづけたのであったが、・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・が、秋三は勘次の気持を見破ると、盛り上って来た怒りが急に折れて侮辱の念に変って来た。と同時に安次の弱さに腹の底から憎悪を感じると、彼の掌はいきなり叩頭している安次の片頬をぴしゃりと打った。「しっかり、養生しやれ。」 秋三は嘲弄した微・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫