・・・その生活の規則的なる事、エマヌエル・カントの再来か時計の振子かと思う程なりき。当時僕等のクラスには、久米正雄の如き或は菊池寛の如き、天縦の材少なからず、是等の豪傑は恒藤と違い、酒を飲んだりストオムをやったり、天馬の空を行くが如き、或は乗合自・・・ 芥川竜之介 「恒藤恭氏」
・・・そう云う場合、どうなると云う明文は守衛規則にありませんから、――」「職に殉じても?」「職に殉じてでもです。」 保吉はちょいと大浦を見た。大浦自身の言葉によれば、彼は必ずしも勇士のように、一死を賭してかかったのではない。賞与を打算・・・ 芥川竜之介 「保吉の手帳から」
・・・ただいまとても別にぶちょうほうのあったわけではござりませんが、股引きが破れまして、膝から下が露出しでござりますので、見苦しいと、こんなにおっしゃります、へい、御規則も心得ないではござりませんが、つい届きませんもんで、へい、だしぬけにこら! ・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・という規則がありました。 真吉は、ここにきてからは、よく主人のいいつけを守って働きました。また、自分のお友だちとも仲よくいたしましたから、みんなから愛されたのです。この分なら、自分でもつとまりそうに思いましたが、夜ねるにつけ、朝目をさま・・・ 小川未明 「真吉とお母さん」
・・・たとえば、失業者及びこれと近い生活をする者をして、日常の必要品たる、家賃を始め、ガス、水道、電気等の料金に至る迄、極めて規則的に強要しつつあるのは、解釈によっては、暴力の行使という他はありません。 さらに、インフレーションにより、当然招・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・すると自治委員の言うのには、寮では寮生のすべては丸刈りたるべしという規則がある。郷に入れば郷に従えという諺を君は知らぬのか。では、郷を去るまでだ、俺は俺の頭を守ると、私は気障な言い方をして、寮を去り下宿住いをした。丁度満州事変が起った直後の・・・ 織田作之助 「髪」
・・・ しかし、間もなく朦朧俥夫の取締規則が出来て、溝の側の溜場にも屡しばしばお手入れがあってみると、さすがに丹造も居たたまれず、暫らくまごまごした末、大阪日報のお抱え俥夫となった。殊勝な顔で玄関にうずくまり、言葉つきもにわかに改まって丁寧だ・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・ 左様いう塾に就いて教を乞うのは、誰か紹介者が有ればそれで宜しいので、其の頃でも英学や数学の方の私塾はやや営業的で、規則書が有り、月謝束修の制度も整然と立って居たのですが、漢学の方などはまだ古風なもので、塾規が無いのではありませんが至っ・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・直線的有則螺線サ、これは玩弄の鉄砲の中にある蛇腹のような奴サ、第二は曲線的有則螺線サ、これはつまり第一の奴をまげたのと同じことサ、第三は級数的螺線サ、これは螺線のマワリが段々と大きくなる奴サ、第四は不規則螺線サ、此奴が実にむずかしいのだ、メ・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
・・・「僕の家では、君、斯ういう規則にして居る。何かしら為て来ない人には、決して物を上げないということにして居る。だって君、左様じゃないか。僕だって働かずには生きて居られないじゃないか。その汗を流して手に入れたものを、ただで他に上げるということは・・・ 島崎藤村 「朝飯」
出典:青空文庫