・・・あたしのために、みんなあたしのために、お母さん、ごめんなさいね、これからあたしは、親孝行して、御恩をかえすのだから、もうなんにも言わないで。日本にはもう世界に誇るものがなんにも無くなったけれど、でも、あたしのお母さんは、あたしのお母さんだけ・・・ 太宰治 「冬の花火」
・・・そしてプンプンおこりながら、天井裏街の方へ行く途中で、二匹のむかでが親孝行の蜘蛛の話をしているのを聞きました。 「ほんとうにね、そうはできないもんだよ。」「ええ、ええ、全くですよ。それにあの子は、自分もどこかからだが悪いんですよ。そ・・・ 宮沢賢治 「クねずみ」
・・・[自注17]大変嬉しい計画――親孝行の計画も財政不如意で今日まで実現していない。 八月二十日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 駒込林町より〕 八月二十日。今日「夜明け前」の後篇とロンドンの「ホワイト・フアング」の訳とドーデエ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 親孝行というものが、ただおとなしく、親達の命令のままに暮して行くことではないということを知ると同じように、自分は自分の愛情――彼等への同情のうちに、理智の照り返しを与えただろうか。 彼女は、惨めな乞食に、一銭投げ与える年寄りは、永・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
出典:青空文庫