・・・しかしわたしはそれよりも先に、戯曲と云わず小説と云わず、彼の観照に方向を与えた、ショオの影響を数え上げたい。ショオの言葉に従えば、「あらゆる文芸はジャアナリズムである。」こう云う意識があったかどうか、それは問題にしないでも好い。が、菊池はシ・・・ 芥川竜之介 「「菊池寛全集」の序」
・・・そうしてこれはしばしば後者の一つの属性のごとく取扱われてきたにかかわらず、近来(純粋自然主義が彼の観照の傾向は、ようやく両者の間の溝渠のついに越ゆべからざるを示している。この意味において、魚住氏の指摘はよくその時を得たものというべきである。・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・また紅葉の人生観照や性格描写を凡近浅薄と貶しながらもその文章を古今に匹儔なき名文であると激賞して常に反覆細読していた。最も驚くべきは『新声』とか何々文壇とかいうような青年寄書雑誌をすらわざわざ購読して、中学を卒業したかそこらの無名の青年の文・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・これを冷静に批評し得るほどの観察力観照力は、長い月日の間に、遅々として獲得するよりほかに方法はない。 こゝに初めて読書するということが有効になって来る。それは経験に直接即するよりも、遙かに秩序的であり組織的であるからである。更に詳しく述・・・ 小川未明 「文章を作る人々の根本用意」
・・・の人生観照が秋声ごのみの人生を何の誇張もなく「縮図」している見事さは、市井事もの作家の武田麟太郎氏が私淑したのも無理はないと思われるくらいで、僕もまたこのような文学にふとしたノスタルジアを感ずるのだ。すくなくとも秋声の叫ばぬスタイル、誇張の・・・ 織田作之助 「文学的饒舌」
・・・ しかし案内者や先達の中には、自己のオーソリティに対する信念から割り出された親切から個々の旅行者の自由な観照を抑制する者もないとは言われない。旅行者が特別な興味をもつ対象の前にしばらく歩を止めようとするのを、そんなものはつまらないから見・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・ すべての歌人の取材の範囲やそれに対する観照の態度は、誰でも年を追って自然の変遷を経るもののように見える。しかしそういうものがどんなに変っても、同じ作者の「顔」は存外変らぬもののように思われる。歌を専門的に研究している人達の分析的な細か・・・ 寺田寅彦 「宇都野さんの歌」
・・・これは物の尺度の相違から来る観照の相違である。写真機の目の特異性はこれとはまただいぶちがった方面にある。この目はまず極端な色盲であって現実の世界からあらゆる色彩を奪ってしまう。そうして空間を平面に押しひしいでしまう。そうして、その上にその平・・・ 寺田寅彦 「カメラをさげて」
・・・にしおりを感じたのは畢竟曇らぬ自分自身の目で凡人以上の深さに観照を進めた結果おのずから感得したものである。このほかには言い現わす方法のない、ただ発句によってのみ現わしうるものをそのままに発句にしたのである。 寂びしおりを理想とするという・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
古代ギリシアの哲学者の自然観照ならびに考察の方法とその結果には往々現代の物理学者、化学者のそれと、少なくも範疇的には同様なものがあった。特にルクレチウスによって後世に伝えられたエピキュリアン派の所説中には、そういうものが数・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
出典:青空文庫