・・・「その夜、門口まで送り、母なる人が一寸と上って茶を飲めと勧めたを辞し自宅へと帰路に就きましたが、或難い謎をかけられ、それを解くと自分の運命の悲痛が悉く了解りでもするといったような心持がして、決して比喩じゃアない、確にそういう心持がして、・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・ 然し今の彼の苦悩は自ら解く事の出来ない惑である、「何故梅子はあの晩泣いていたろう。自分が先生に呼ばれてその居間に入る時、梅子は何故あんな相貌をして涙を流して自分を見たろう。自分が先生に向て自分の希望を明言した時に梅子は隣室で聞いていた・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・彼の胸中にわだかまる疑問を解くにたる明らかなる知恵がほしかったのだ。それでは彼の胸裡の疑団とはどんなものであったか。 第一には何故正しく、名分あるものが落魄して、不義にして、名正しからざるものが栄えて権をとるかということであった。・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・と下締を解く。それを結んで小暗い風呂場から出てくると、藤さんが赤い裏の羽織を披げて後へ廻る。「そんなものを私に着せるのですか」「でもほかにはないんですもの」と肩へかける。「それでも洋服とは楽でがんしょうがの」と、初やが焜炉を煽ぎ・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・私がその頃、どれほど作家にあこがれていたか、そのはかない渇望の念こそ、この疑問を解く重要な鍵なのではなかろうか。 ああ、あの間抜けた一言が、私に罪を犯させた。思い出すさえ恐ろしい殺人の罪を犯させた。しかも誰ひとりにも知られず、また、いま・・・ 太宰治 「断崖の錯覚」
・・・同時に、それは彼の生涯の渾沌を解くだいじな鍵となった。形式には、「雛」の影響が認められた。けれども心は、彼のものであった。原文のまま。 おかしな幽霊を見たことがございます。あれは、私が小学校にあがって間もなくのことでございますから、どう・・・ 太宰治 「葉」
・・・げんに私が、その大泥靴の夢を見ながら、誰も私に警報して呉れぬものだから、どうにも、なんだか気にかかりながら、その夢の真意を解くことが出来ず愚図愚図まごついているうちに、とうとうどろぼうに見舞われてしまったではないか。まだ、ある。なんとも意味・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・オベリスクやエッフェル塔が空中でとんぼ返りをしたりする滑稽でも、要領がよいのでくすぐりに落ちずして自然に人のあごを解くようなところがある。「制服の処女」とこの映画とを比べても実によくドイツ人の映画とフランス人の映画との対照がわかるような・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・それ故にこの疑問を解くことは我国の学問の正常な発達のために緊要なことではないかと思われるのである。自分などはもとよりこの六かしい問題に対して明瞭な解答を与えるだけの能力は無いのであるが、ただ試みに以下にこの点に関する私見を述べて先覚者の教え・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・引摺り上げる時風呂敷の間から、その結目を解くにも及ばず、書物が五、六冊畳の上へくずれ出したので、わたしは無造作に、「君、拾円貸したまえ。」 番頭は例の如くわれわれをあくまで仕様のない坊ちゃんだというように、にやにや笑いながら、「駄目・・・ 永井荷風 「梅雨晴」
出典:青空文庫