・・・自分は、この伝説的な人物に関して、嘗て自分が懐いていた二つの疑問を挙げ、その疑問が先頃偶然自分の手で発見された古文書によって、二つながら解決された事を公表したいのである。そうして、その古文書の内容をも併せて、ここに公表したいのである。まず、・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・粟野さんはいつも易やすと彼の疑問を解決した。しかし余り無造作に解決出来る場合だけは、――保吉は未だにはっきりと一思案を装った粟野さんの偽善的態度を覚えている。粟野さんは保吉の教科書を前に、火の消えたパイプを啣えたまま、いつもちょっと沈吟した・・・ 芥川竜之介 「十円札」
・・・思想と実生活とが融合した、そこから生ずる現象――その現象はいつでも人間生活の統一を最も純粋な形に持ち来たすものであるが――として最近に日本において、最も注意せらるべきものは、社会問題の、問題としてまた解決としての運動が、いわゆる学者もしくは・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・二つの道をいかにすべきかを究めあぐんだ時、人はたまりかねて解決以外の解決に走る。なんでもいいから気の落ち付く方法を作りたい。人と人とが互いに不安の眼を張って顔を合わせたくない。長閑な日和だと祝し合いたい。そこで一つの迷信に満足せねばならなく・・・ 有島武郎 「二つの道」
・・・フレンチがあれをさえ思い出せば、万事解決することが出来ると思ったのは、この表情を自分がはっきり解したのに、やはり一同と一しょに、じっと動かずにいて、慾張った好奇心に駆られて、この人殺しの一々の出来事を記憶に留めたという事実であって、それが思・・・ 著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外 「罪人」
・・・という名を最初からあまりにオオソライズして考えていたために、この矛盾を根柢まで深く解剖し、検覈することを、そうしてそれが彼らの確執を最も早く解決するものなることを忘れていたのである。かくてこの「主義」はすでに五年の間間断なき論争を続けられて・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・ そりゃ境遇が違えば、したがって心持ちも違うのが当然じゃと、無造作に解決しておけばそれまでであるけれど、僕らはそれをいま少し深く考えてみたいのだ。いちじるしき境遇の相違は、とうていくまなくあい解することはできないにしても、なるべくは解し・・・ 伊藤左千夫 「去年」
・・・ 老病死の解決を叫んで王者の尊を弊履のごとくに捨てられた大聖釈尊は、そのとき年三十と聞いたけれど、今の世は老者なお青年を夢みて、老なる問題はどこのすみにも問題になっていない。根底より虚偽な人生、上面ばかりな人世、終焉常暗な人生…… ・・・ 伊藤左千夫 「紅黄録」
・・・また例えば金光寺門前の狐竜の化石延命院の牡丹の弁の如き、馬琴の得意の涅覓論であるが、馬琴としては因縁因果の解決を与えたのである。馬琴の人生観や宇宙観の批評は別問題として、『八犬伝』は馬琴の哲学諸相を綜合具象した馬琴宗の根本経典である。・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・彼は天然はまた彼にこの難問題をも解決してくれることと確信しました。ゆえに彼はさらに研究を続けました。しかして彼の頭脳にフト浮び出ましたことはアルプス産の小樅でありました。もしこれを移植したらばいかんと彼は思いました。しかしてこれを取り来りて・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
出典:青空文庫