・・・お前は灯はともさないと言い張るそうだが、暗がりで画がかけるのか。」とお聞きになりました。 ウイリイは仕方なしに、羽根のことをすっかりお話ししました。すると王さまは、その羽根を見せよと仰いました。 王さまはウイリイが言ったように、羽根・・・ 鈴木三重吉 「黄金鳥」
・・・頑固に言い張るのだ。まずしいものを褒めるのは、いい気持だ。 けれども時々、失敗する事がある。「今夜は? そうか、何も無いか。こういう夜もまた一興だ。工夫しよう。そうだ、海苔茶漬にしよう。粋なものなんだ。海苔を出してくれ。」最も簡略の・・・ 太宰治 「新郎」
・・・雪は、私を宿まで送ってやると言い張るのである。いちめんに霜のおりたまちはしずかにしずまっていた。ひとめにかからず、かえって仕合せであると私は思った。そとへ出て冷たい風に当ると、私の酔はさっと醒めた。いや、風のせいだけではなかった。酔いしれた・・・ 太宰治 「断崖の錯覚」
・・・に雄飛しなければ、生きていても屍同然である、お母さん、人間はいつか必ず死ぬものです、自分の好きな路に進んで、努力してそうして中途でたおれたとて、僕は本望です、と大きい男がからだを震わせ、熱い涙を流して言い張る有様には、さすがに少年の純粋な一・・・ 太宰治 「花火」
・・・盗難や詐欺にかかった被害者の女師匠などが、加害者でもなんでもない赤の他人の立派なお役人を、どうでもそうだと言い張る場合などがそれである。 突発した事件の目撃者から、その直後に聞き取ったいわゆる証言でも大半は間違っている。これは実験心理学・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
出典:青空文庫