・・・「万事にかない給うおん主、おん計らいに任せ奉る。」 やっと縄を離れたおぎんは、茫然としばらく佇んでいた。が、孫七やおすみを見ると、急にその前へ跪きながら、何も云わずに涙を流した。孫七はやはり眼を閉じている。おすみも顔をそむけたまま、・・・ 芥川竜之介 「おぎん」
・・・「わたくしの一存にとり計らいましても、よろしいものでございましょうか?」「うむ、上を欺いた……」 それは実際直孝には疑う余地などのないことだった。しかし家康はいつの間にか人一倍大きい目をしたまま、何か敵勢にでも向い合ったようにこ・・・ 芥川竜之介 「古千屋」
・・・ これも日頃信心する神や仏のお計らいであろう。八百万の神々、十方の諸菩薩、どうかこの嘘の剥げませぬように。 二 黄泉の使、玉造の小町を背負いながら、闇穴道を歩いて来る。 小町 (金切声どこへ行くのです? ど・・・ 芥川竜之介 「二人小町」
・・・ 車馬の通行を留めた場所とて、人目の恥に歩行みもならず、――金方の計らいで、――万松亭という汀なる料理店に、とにかく引籠る事にした。紫玉はただ引被いで打伏した。が、金方は油断せず。弟子たちにも旨を含めた。で、次場所の興行かくては面白かる・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・わたしのためわたしのためと心配してくださる両親の意に背いては、誠に済まない事と思いますけれど、こればかりは神様の計らいに任せて戴きたい、姉さんどうぞ堪忍してください、わたしの我儘には相違ないでしょうが、わたしはとうから覚悟をきめています。今・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・それ故に、御方様の、たっての御願い、生命にもかかることと思召して、どうぞ吾が手に戻るようの御計らいをと、……」 生命にもかかるの一語は低い声ではあったが耳に立たぬわけには行かなかった。「ナニ、生命にもかかる。」 最高級の言葉を使・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・ 領事のほうからは、本国の家族から事後の処置に関する返電の来るまで遺骸をどこかに保管してもらいたいという話があって、結局M教授の計らいでM大学の解剖学教室でそれを預かることになった。 同教室に運ばれた遺骸に防腐の薬液を注射したのは、・・・ 寺田寅彦 「B教授の死」
・・・本のこともすぐ計らいます。どうかくれぐれもお大切に。お元気なのは分って居りますが家のもの、友人たちは本当に心配して居ります。全体として体力を蓄積なさることが大切ですから、読書なども平常よりは用心してなさいますように。 皆からよろしく。き・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫