・・・こうなると話にも尾鰭がついて、やれあすこの稚児にも竜が憑いて歌を詠んだの、やれここの巫女にも竜が現れて託宣をしたのと、まるでその猿沢の池の竜が今にもあの水の上へ、首でも出しそうな騒ぎでございます。いや、首までは出しも致しますまいが、その中に・・・ 芥川竜之介 「竜」
・・・とその番号を心のなかで極め、託宣を聴くような気持ですれちがうのを待っていた――そんなことをした時もあったとその日云っておりました。そしてその話は私にとって無感覚なのでした。そんなことにも私自身がこだわりを持っていました。二 ・・・ 梶井基次郎 「橡の花」
・・・甲某は何々のオーソリチーであるとなれば、その人の所説は神の託宣のように誤りないと思われるのが通例である。想うにこれらは権威者の罪というよりはむしろ権威者の絶対性を妄信する無批判な群小の罪だと考えなければなるまい。もとより一般から権威と認めら・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・この男は山椒大夫一家のものの言いつけを、神の託宣を聴くように聴く。そこで随分情けない、苛酷なことをもためらわずにする。しかし生得、人の悶え苦しんだり、泣き叫んだりするのを見たがりはしない。物事がおだやかに運んで、そんなことを見ずに済めば、そ・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・お梅さんが床の間の前に据わって、富田に馳走をせいと儼然として御託宣があるのだ。そうすると山海の美味が前に並ぶのだ。」「分からないね。箕村というのは誰だい。それにお梅さんという人はどうしてそんなに息張っているのだい。」「そりゃ息張って・・・ 森鴎外 「独身」
出典:青空文庫