・・・隣の家は歯医者らしく、二階の部屋で白い診療衣を着た医者が黙々と立ち働いているのが見えました。治療してもらっているのはどこかの奥さんらしくアッパッパを着て、スリッパをはいた両足をきちんと揃えて、仰向いています。何か日々の営みのなつかしさを想わ・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・っともこれを忘れているおかげで今日を楽しむことができるのだという人があるかもしれないのであるが、それは個人めいめいの哲学に任せるとして、少なくも一国の為政の枢機に参与する人々だけは、この健忘症に対する診療を常々怠らないようにしてもらいたいと・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・仕事の性質上婦人が多いので、ここの衛生委員は特別に歯科の診療所を工場内に設けた。小ざっぱりとした白い壁の小部屋で、ピカピカ清潔な医療道具がガラス箱の内に揃っている。白い上っぱりを着た医者が一人の女の患者を扱っているところだった。「女はど・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・共同炊事や托児所や診療施設など。若い農村の女性こそ青年たちと力を合わせ、新しい農村は生活を建設してゆく輝きでなければならないと思う。 宮本百合子 「新しき大地」
・・・農村の学校、診療所、産院等五ヵ年計画では大した予算で増設されている。 一度あの様子が見せたい、と私はその人に心から云った。そうすれば、いろんなデマはうそで農民の幸福というものはどんなものであるか分るし、そのために闘い、プロレタリアと共に・・・ 宮本百合子 「今にわれらも」
・・・カール・コルヴィッツというドクトルはつつましい生活をする勤労者のためにノルデンにあった月賦診療所に働くことを、科学者としての使命と考えていた人で、真に労働者の医者であろうとした人であった。 父シュミットは、ケーテの幼い時からその才能を認・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・のほかに附属の病院、診療所、「休みの家」、クラブなどをもっている。 モスクワ、レーニングラード、ロストフその他少し目ぼしいСССРの都会は、街のどっかにきっと「農民の家」と看板をかかげた建物をもっている。そして遠いか近いか、やっぱり同じ・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・何故なら、勤労婦人の現実の生活を身軽に、幸福にする各区の無料病院、託児所、診療所、母子健康相談所、共同食堂の経営などは、みんな市ソヴェトの保健部の仕事と関係があります。 ソヴェト政権は、勤労婦人に出産前後四ヵ月の給料つき休暇と、月給の半・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の婦人と選挙」
・・・若し有料診療を受けなけりゃならない場合は半額だ。おまけに、ソヴェトでは家賃というものが、月給に応じた割合で払えばいいことになっているんだからな。 ――そうかい! そりゃききものだ。どの産業の労働者も、家賃なんか、そういうやりかたで払って・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・ 集団農場、工場は診療所をもっている。傷害保険、養老保険は、手前の賃銀からサッ引かれることはない。国家が負担する。一年一ヵ月ずつ給料つきの休暇を貰って、「休みの家」へ休みに行く。昔の美しい離宮、ブルジョアの大別荘が、今は楽しい勤労大衆の・・・ 宮本百合子 「ソヴェト労働者の解放された生活」
出典:青空文庫