・・・すなわち物心という二要素が強いて生活の中に建立されて、すべての生活が物によってのみ評定されるに至った。その原因は前にもいったように物的価値の内容、配当、使用が正しからぬ組立てのもとに置かれるようになったからである。その結果として起こってきた・・・ 有島武郎 「想片」
・・・作家が後もどりして、その評定に参加している図は、奇妙なものです。作家は、平気で歩いて居ればいいのです。五十年、六十年、死ぬるまで歩いていなければならぬ。「傑作」を、せめて一つと、りきんでいるのは、あれは逃げ仕度をしている人です。それを書いて・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・そのほか、処々の無智ゆえに情薄き評定の有様、手にとるが如く、眼前に真しろき滝を見るよりも分明、知りつつもわれ、真珠の雨、のちのち、わがためのブランデス先生、おそらくは、わが死後、――いやだ! 真珠の雨。無言の海容。すべて、これらのお・・・ 太宰治 「創生記」
・・・たとえば大評定の場でもただくわいを並べた八百屋の店先のような印象しかない。この点は舶来のものには大概ちゃんと考慮してあるようである。第三にはフィルムの毎秒のコマ数によっておのずから規定された速度の制約を無視して、快速な運動を近距離から写した・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・「大広間の評定」「道中の行列」これには大抵同じ土手や昭和国道がつかわれる。「花柳街のセット」「宿屋の帳場」「河原の剣劇」「御寺の前の追駆け」「茶屋の二階の障子の影法師」それから……。それからまたどの映画にも必ず根気よく実に根気よく繰返される・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・そして桝が四人詰であったところから仲間を誰れと誰れとにしようかと、そんな評定をしているうちにお絹が少し困った立場に立つことになってきた。女たちが三人行くことになれば、辰之助には気の毒なことになるし、辰之助を誘えば、誰かが一人ぬけなければなら・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・一同は遂にがたがた寒さに顫出す程、長評定を凝した結果、止むを得ないから、見付出した一方口を硫黄でえぶし、田崎は家にある鉄砲を準備し、父は大弓に矢をつがい、喜助は天秤棒、鳶の清五郎は鳶口、折から、少く後れて、例年の雪掻きにと、植木屋の安が来た・・・ 永井荷風 「狐」
・・・ 翌朝、平常どおり八時に出勤して来て凡そ十時頃から、やっと今野を病院へ入れる評定にとりかかった。主任が両手をポケットに入れてやって来て、「どんな工合かね」というから、自分は待ちかねていたと云い、若し病院が面倒なら、斯う斯うい・・・ 宮本百合子 「刻々」
出典:青空文庫