・・・狡猾であり、詭計を以て掠め取るということ。六、彼の病気。癲癇ではないか。(肉体に一つの刺七、彼が約束を守らぬということ。 その他、到れり尽せりの人身攻撃を受けたようである。 今官一君が、いま、パウロの事を書いているのを知・・・ 太宰治 「パウロの混乱」
・・・そうして復讐を計画し、詭計によって賊をおびき寄せておいて皆殺しにする。後日再び奥州から大軍の将として上洛する途上この宿に立寄り懇ろに母の霊を祭る、という物語を絵巻物十二巻に仕立てたものである。 絵巻物というものは現代の映画の先祖と見るこ・・・ 寺田寅彦 「山中常盤双紙」
・・・デスデモーナのハンカチーフは、イヤゴーのその詭計の媒介物としてつかわれた。オセロの嫉妬をかきたてるために罪ふかい一枚の布きれとして利用される。デスデモーナはそのハンカチーフをぬすまれ、しかもそれを男にやったように、イヤゴーに仕組まれた。・・・ 宮本百合子 「デスデモーナのハンカチーフ」
・・・ 現在海老屋の所有となっている広大な土地は、全部こういう風な詭計を用いて奪ったのだと云うことは、決して単にそねみ半分の悪口ばかりだとはいえない。 そんなことをするに、ちっとも可哀そうだとも、恥かしいとも思わないだけ、充分に彼女の心は・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・彼が必死に富もうとすれば、より富んでいるものが更に富むために彼を詭計に陥れ、富者の権力、その法律はその富者の公然たる詭計を擁護し、裸同然の彼を追いまわし苦しめた。彼がブルジョアジーを猛烈に攻撃するのは、実に彼自身がその一人となろうとする慾望・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・田舎風な都会、一年の最高頂の時期は、罵声と殴り合いの合奏する巨額な金の集散、そのおこぼれにあずからんとする小人の詭計の跳梁、泥酔、嬌笑に満ち、平日は通俗絵入新聞が地方客に向って撒く文化を糧としつつ、ヴォルガ沿岸の農民対手の小商売で日暮してい・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫