・・・として刺戟をもっていた時代が過ぎて以来、ようやくただの記述、ただの説話に傾いてきている文学も、かくてまたその眠れる精神が目を覚してくるのではあるまいか。なぜなれば、我々全青年の心が「明日」を占領した時、その時「今日」のいっさいが初めて最も適・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・ オリジナリティの無いと称せらるる国の昔話に人まねを戒める説話の多いのも興味のあることである。 それから、また労働争議というはなはだオリジナルでない運動の中からこういう個性的にオリジナルなものが出現して喝采を博したのもまた一つの不思・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
われわれのように地球物理学関係の研究に従事しているものが国々の神話などを読む場合に一番気のつくことは、それらの説話の中にその国々の気候風土の特徴が濃厚に印銘されており浸潤していることである。たとえばスカンディナヴィアの神話・・・ 寺田寅彦 「神話と地球物理学」
・・・流行の説話体というものは、或る独特な作家的稟質にとってだけ、真にそのひとの云おうとすることを云わしめるもので、多くの他の気質の作家にとっては、必要でもない身のくねりや、言葉の誇張された抑揚や聴きてを退屈させない芸当やらを教え込むもので、意味・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・、高見順は説話体というものの親玉なり。それから「物慾」とか「情慾」とかそういう傾向の。高見順という作家は「毅然たる荒廃」を主張しているそうですが、バーや女給やデカダンスの中では毅然たるものが発生しにくいし他に生活はないし、背骨が立たぬから説・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・とする高見順は、「描写のうしろに寝ていられない」という自身の理解から「十九世紀的な客観小説の伝統なり約束なりに不満が生じた以上は、小説というものの核心である描写も平和を失った。」と説話体の手法をもって現れた。この作家が、頽廃の中にさえヒュー・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ したがって、現代説話のイカルスは、太陽熱にとかされる古風な膠などで自分の背中に翼をとりつけてはいない。イカルスは一人ではない。複数になった。地球上幾億の翔ぼうと欲している男女はイカルスとしてあらわれて来ているし、その翼は、膠で背中へつ・・・ 宮本百合子 「なぜ、それはそうであったか」
・・・その中には寺社の縁起物語の類が多く、題材は日本の神話伝説、仏典の説話、民間説話など多方面で、その構想力も実に奔放自在である。それらは、そういう寺社を教養の中心としていた民衆の心情を、最も直接に反映したものとして取り扱ってよいであろう。民俗学・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫