・・・銀座の商店の改良と銀座の街の敷石とは、将来如何なる進化の道によって、浴衣に兵児帯をしめた夕凉の人の姿と、唐傘に高足駄を穿いた通行人との調和を取るに至るであろうか。交詢社の広間に行くと、希臘風の人物を描いた「神の森」の壁画の下に、五ツ紋の紳士・・・ 永井荷風 「銀座」
・・・ローマン主義のように空想に近い理想を立てずに、程度の低い実際に近い達成し得らるる目的を立てて、やって行くのである。社会は常に、二元である。ローマン主義の調和は時と場所に依り、その要求に応じて二者が適宜に調諧して、甲の場合には自然主義六分ロー・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・デカルトのかかる考といい、ライプニッツの予定調和といい、時代性とはいえ、鋭利なる頭脳に相応しからざることである。デカルトの如く我々の自己を独立の実体と考える時、神の存在との間に矛盾を起さざるを得ない。デカルトは「第三省察」において神の存在を・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・空気のいささかな動揺にも、対比、均斉、調和、平衡等の美的法則を破らないよう、注意が隅々まで行き渡っていた。しかもその美的法則の構成には、非常に複雑な微分数的計算を要するので、あらゆる町の神経が、非常に緊張して戦いていた。例えばちょっとした調・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・元来婦人の性質は穎敏にして物に感ずること男子よりも甚しきの常なれば、夫たる者の無礼無作法粗野暴言、やゝもすれば人を驚かして家庭の調和を破ること多し。之を慎しむは男子第一の務なる可し。又夫の教訓あらば其命に背く可らず、疑わしきことは夫に問うて・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・それで夫婦中は非常に善く調和して居るから不思議だ。今その上さんが熊手持って忙しそうに帰って行くのは内に居る子供が酉の市のお土産でも待って居るのかとも見えるがそうではない。この夫婦には子は一人もないのでこの上さんは大きな三毛猫を一匹飼うて子よ・・・ 正岡子規 「熊手と提灯」
・・・何せそう云ういい天気で、帆布が半透明に光っているのですから、実にその調和のいいこと、もうこここそやがて完成さるべき、世界ビジテリアン大会堂の、陶製の大天井かと思われたのであります。向うには勿論花で飾られた高い祭壇が設けられていました。そのと・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・組合の中で婦人部と青年部とはよく調和して活動できるけれども、大人の男子組合員とは役員の選出の点でも、議題を出す分量でも、いろいろなことで女の人がまだまだ不満をもった状態におかれているところがある。そして、そういう職場の気分は巧に傭主につかま・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・「こないだ太陽を見たら、君の役所での秩序的生活と芸術的生活とは矛盾していて、到底調和が出来ないと云ってあったっけ。あれを見たかね。」「見た。風俗を壊乱する芸術と官吏服務規則とは調和の出来ようがないと云うのだろう。」「なるほど、風・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・ 十五世紀から十七世紀へかけての航海者の報告を総合すれば、サハラの沙漠から南へ広がっているニグロ・アフリカに、そのころなお、調和的に立派に形成された文化が満開の美しさを見せていたということは確実なのである。ではその文化の華はどうなったか・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫