・・・ わが心霊学協会は先般自殺したる詩人トック君の旧居にして現在は××写真師のステュディオなる□□街第二百五十一号に臨時調査会を開催せり。列席せる会員は下のごとし。 我ら十七名の会員は心霊協会会長ペック氏とともに九月十七日午前十時三十分・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・「そうしてその仮定と云うのは、今君が挙げた加治木常樹城山籠城調査筆記とか、市来四郎日記とか云うものの記事を、間違のない事実だとする事です。だからそう云う史料は始めから否定している僕にとっては、折角の君の名論も、徹頭徹尾ノンセンスと云うよ・・・ 芥川竜之介 「西郷隆盛」
・・・「イヤ帳簿の調査もあるからお前先へ寝ておくれ」と言って自分は八畳の間に入り机に向った。然し妻は容易に寝そうもないので、「早くお寝みというに」 自分はこれまで、これほど角のある言葉すら妻に向って発したことはないのである。妻は不審そ・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・トルストイのような古今無双の天才でも、自分が実際行ったセバストポールと、想像と調査が書いた「戦争と平和」に於ける戦争とには、段がついている。「セバストポール」には、本当にその場に行き合わしたものでなければ出せないものがある。それが吾々を・・・ 黒島伝治 「愛読した本と作家から」
・・・もとは、笠井さんも、そのような調査の記録を、写実の数字を、極端に軽蔑して、花の名、鳥の名、樹木の名をさえ俗事と見なして、てんで無関心、うわのそらで、謂わば、ひたすらにプラトニックであって、よろずに疎いおのれの姿をひそかに愛し、高尚なことでは・・・ 太宰治 「八十八夜」
・・・事件の再調査を申請して来たのである。その二年前に、勝治は生命保険に加入していた。受取人は仙之助氏になっていて、額は二万円を越えていた。この事実は、仙之助氏の立場を甚だ不利にした。検事局は再調査を開始した。世人はひとしく仙之助氏の無辜を信じて・・・ 太宰治 「花火」
・・・ それからの鶴の消息に就いては、鶴の近親の者たちの調査も推測も行きとどかず、どうもはっきりは、わからない。 五日ほど経った早朝、鶴は、突如、京都市左京区の某商会にあらわれ、かつて戦友だったとかいう北川という社員に面会を求め、二人で京・・・ 太宰治 「犯人」
・・・ それからまたある盲目の学者がモンテーニュの研究をするために採った綿密な調査の方法を思い出した。モンテーニュの論文をことごとく点字に写し取った中から、あらゆる思想や、警句や、特徴や、挿話を書き抜き、分類し、整理した後に、さらにこの著者が・・・ 寺田寅彦 「浅草紙」
・・・筒井氏の調査によると、冬季降雪の多い区域が、若狭越前から、近江の北半へ突き出て、V字形をなしている。そして、その最も南の先端が、美濃、近江、伊勢三国の境のへんまで来ているのである。従って、伊吹山は、この区域の東の境の内側にはいっているが、そ・・・ 寺田寅彦 「伊吹山の句について」
・・・今度の火災については消防方面の当局者はもちろん、建築家、百貨店経営者等直接利害を感ずる人々の側ではすぐに徹底的の調査研究に着手して取りあえず災害予防方法を講究しておられるようであるが、何よりもいちばんだいじと思われる市民の火災訓練のほうがい・・・ 寺田寅彦 「火事教育」
出典:青空文庫