・・・ これは書物で読んだことだが、樫鳥や山鳩や山鴫のような鳥類が目にも止まらぬような急速度で錯雑した樹枝の間を縫うて飛んで行くのに、決して一枚の木の葉にも翼を触れるような事はない、これは鳥の目の調節の速さと、その視覚に応じて反射的に行なわれ・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・これは鳥の眼の調節の速さと、その視覚に応じて反射的に行われる羽翼の筋肉の機制の敏活を物語るものである。もし吾々人間にこの半分の能力があれば、銀座の四つ角で自動車電車の行き違う間を、巡査やシグナルの助けを借りずとも自由自在に通過することが出来・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・そこでこの容器の底に穴をあけて水を流出させれば水面の降下につれて栓と棒とが降下するのであるが、その穴の大きさをうまく調節すると二つの土器の二つの棒が全く同じ速度で降下しいつでも同じ通信文が同時に容器の口のところに来ているようになるのである。・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・しかしそれだけの速い運動を支配し調節するためにはそれ相当に速く働く神経をもっていなければならない。その速い神経で感ずる時間感はわれわれの感じるとはかなりちがったものであろう。それで、事によるとこれらの一寸法師はわれわれの一秒をあたかもわれら・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・すると、拡声器の調節が悪いためか、歌がちょうど咽喉にでも引っかかるようにひっかかってぷつりぷつりと中断する。みんなが笑いだす。そういうことを何度も繰り返していた。 十五日の晩は雨でお流れになるかと思ったらみんな本館の大広間へ上がって夜ふ・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・人間でさえも、ほんの少しばかりいつもより鍔の広い麦藁帽をかぶるともう見当がちがって、いろいろなものにぶっつかるくらいであるから、いかに神経の鋭敏な三毛でも日々に進行するからだの変化に適応して運動を調節する事はできなかったにちがいない。それは・・・ 寺田寅彦 「子猫」
・・・ 荒川放水路の水量を調節する近代科学的閘門の上を通って土手を数町川下へさがると右にクラブハウスがあり左にリンクが展開している。 クラブの建物はいつか覗いてみた朝霞村のなどに比べるとかなり謙遜な木造平家で、どこかの田舎の学校の運動場に・・・ 寺田寅彦 「ゴルフ随行記」
・・・すなわち、前面が凸出する点の速度が減じ、凹入した点の速度が増し、かくして自動的に調節が行なわれ、その結果として始めて円形が保たれるものと思われる。これに反して偶然変異がそのままに保存され蓄積し増長する多くの場合には不規則な花形、「ひとで」形・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・それには、もっとデリケートな調節器官が入用であって、その大切な役目を務めるのが弓を持った演奏者の手首であるらしい。普通の初等物理学教科書などには弦が独立した振動体であるようなことになっているが、あれも厳密に言えば弦も楽器全体も弓も演奏者の手・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・吾々の方で非常に精密な器械の調節でもしているのと似たような際どい細かさがあった。これでは絵をかくのも大変な事であると思われた。いつか道灌山へ夏目先生と二人で散歩に行った時、そこの崖の上で下の平野を写生していた素人絵かきがあった。その絵があん・・・ 寺田寅彦 「中村彝氏の追憶」
出典:青空文庫