・・・お召の縞柄を論ずるには委しいけれど、電車に乗って新しい都会を一人歩きする事なぞは今だに出来ない。つまり明治の新しい女子教育とは全く無関係な女なのである。稽古唄の文句によって、親の許さぬ色恋は悪い事であると知っていたので、初恋の若旦那とは生木・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・とある以上、つまり文芸と道徳との関係に帰着するのだから、道徳の関係しない方面、あるいは部分の文芸と云うものはここに論ずる限りでない。したがって文芸の中でも道徳の意味を帯びた倫理的の臭味を脱却する事のできない文芸上の述作についてのお話と云って・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・と云うものはそんな傾向をもっておらないようなもの、その傾向に応じて世の中に処して来なかったものは皆死んでしまったので、今残っているやつは命の欲しい欲張りばかりになったのだと論ずる事もできるからであります。御互のように命については極めて執着の・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・知識を論ずるのが知識哲学であり、道徳を論ずるのが道徳哲学である。批評哲学とは知識に対する深い反省である。この故にそれは哲学である。それは知識と真実在との深刻なる対決である。しかし真実在の問題は不可知的なる物自体の問題として捨てられた。問題を・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・ 人或は言わん、右に論ずる所、道理は則ち道理なれども、一方より見れば今日女権の拡張は恰も社会の秩序を紊乱するものにして遽に賛成するを得ずとて、躊躇する者もあらんかなれども、凡そ時弊を矯正するには社会に多少の波瀾なきを得ず。其波瀾を掛念と・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・たとえば世に、商売工業の議論あり、物産製作の議論あり、華士族処分の議論あり、家産相続法の議論あり、宗旨の得失を論ずる者あり、教育の是非を議する者あり、学校設立の説を述る者あり、文字改革の議を発する者あり。 いずれも皆、国の文明のために重・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
余の初め歌を論ずる、ある人余に勧めて俊頼集、文雄集、曙覧集を見よという。それかくいうは三家の集が尋常歌集に異なるところあるをもってなり。まず源俊頼の『散木弃歌集』を見て失望す。いくらかの珍しき語を用いたるほかに何の珍しきこ・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・それと同時に、その歴史の必然性、その原理はもうとっくにわかっているのだから、くりかえして論ずるのはもう結構だ。なにか見せてくれ。なにか新しいものを啓示して、新しい情熱をふき入れてくれ。そういう他力本願の心理的要求が瀰漫している。 より年・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・Meyer と Brockhaus との得失を論ずる。こう云うドイツの本が Larousse や Britannica と違う所以を論ずる。俗書が段々科学的の書に接近して来る風潮を論ずる。とうとう私はランプの附くまでいて帰った。 私は借・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・を要求する者の苦しみと努力とに対するいささかの同情も同感も現われていないからである。徹底し切れない所に徹底を要求する者の種々な心持ちがある。それを見得ない人にどうして「徹底」を論ずる権利があろう。彼は自らを「徹底した人」に擬しているかも知れ・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫