・・・それに、久しい無縁墓だで、ことわりいう檀家もなしの、立合ってくれる人の見分もないで、と一論判あった上で、土には触らねえ事になったでがす。」「そうあるべき処だよ。」「ところで、はい、あのさ、石彫の大え糸枠の上へ、がっしりと、立派なお堂・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・彼女の行末のことだの、心配だのを、彼女の目の前で平気に論判します。スバーは、極く小さい子供の時から、神が何かの祟りのように自分を父の家にお遣しになったのを知っていたのでなみの人々から遠慮し、一人だけ離れて暮して行こうとしました。若し皆が、彼・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・帝大の学生そのほか諸学校学生で、社会科学の研究をしているくらいの青年たちと、条理において論判したら、看守は決して理に立って自分を権威づけられない。彼等はこの事実を見ぬいていた。それだから、これらの留置場では、理屈を云わせないために、一寸した・・・ 宮本百合子 「誰のために」
・・・話すというより、むしろ、すこし喧嘩っぽく論判していた。わたしたちは大人のそういう雰囲気に影響されて、ふだんよりおとなしく庭で遊んでいた。すると、急にどっかからつよい羽音がきこえたと思うと、茶の間にいる母の、「あらっ! 鳩! 鳩!」と・・・ 宮本百合子 「道灌山」
・・・そしていよいよ事務所まで買いかけたことがわかった時、大柄なずんぐりな二十の息子であるバルザックは父親と大論判をはじめた。バルザックはどうしても文学をやるのだと云って「大声に泣き叫ぶ」騒動を演じた。 母のとりなし、特に妹のロオルの支持で、・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ この論判から掴み合いが持ち上った。ゴーリキイがサーシャの辻堂を破壊した。忽ち翌朝からサーシャの魔法――小僧ゴーリキイが朝磨かなければならない靴という靴の中の、ちょうど手を怪我せずにはいられないところにピンが植わっているという復讐がはじ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・たまらなくなって、ゴーリキイは彼等と論判をはじめた。が、結局自分に学生を護り得るどんな力があるというのであろうか。 ゴーリキイの全心を哀傷がかんだ。夜、カバン河の岸に坐り、暗い水の中へ石を投げながら、三つの言葉で、それを無限に繰返しなが・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・ルイコフとマリーナはさっき大論判をしたところであった。栗色の髪の薄禿げた、キーキー声を出すエーゴルは、ジェルテルスキーの言葉で、妻を迎えに来たのであった。「レオニード・グレゴリウィッチにもお気の毒だから、一先ずお帰り、――これこの通り、・・・ 宮本百合子 「街」
出典:青空文庫