・・・ 或る時は身の置き所のない程自分が小さく見すぼらしいものになったり、そうかと思えば非常に拡がった自分になって、世界中のどんな人にでも謙譲な美くしい自分を現わして行ける心持になったりして居ます。 そして、其那ときには、落着いた心で自分・・・ 宮本百合子 「動かされないと云う事」
・・・一方からいうと、生活が苦るしく、疲れ、倒れるもののある位、当然であり、大きい目で見、謙譲に考えて、やむを得ない事であると感じます。一人として、過度な緊張からくる一種の疲労を感じないもののない程、我々人間は、人間の小細工でこしらえすぎた過去の・・・ 宮本百合子 「男…は疲れている」
・・・箇人の内的運命と外的運命とが、どんなに微妙に、且つ力強く働き合って人の生涯を右左するかと思うと、自分は新しい熱心と謙譲とで、新に自分の前に展開された、多くの仲間、道伴れの生活の奥の奥まで反省し合って見度く思う。自分が人及び女性として、漸々僅・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・特に日本ではそれが一つの謙譲なたしなみのようにさえ見られて来た習慣があるけれども、そういう慣習こそ、わるい意味で女の仕事を中途半端なものにしてしまっていると思います。ポーランドの代表的な婦人作家エリイザ・オルゼシュコの「寡婦マルタ」という小・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・無限の世界の上にただ ひとひら軽く ふわりと とどまって居るお前耳を澄せば 万物の声が聴える眼をきよめれば 宇宙があらわれる畏ろしい 而も 謙譲なお前紙と呼ばれてねんごろに 日を照り返すのだ。 ・・・ 宮本百合子 「五月の空」
・・・其等の欠点に対しての自分は、真個に何処までも謙譲ではありますけれども、此頃になって、あの作は私の一生の生活を通してかなり大切なものになって来ました。そして、その大切なものとなった原因は、自分にとってあの作を、彼程満足出来ないものとした全く同・・・ 宮本百合子 「沁々した愛情と感謝と」
・・・ただよった時葉の縁には細い細いしかしながらまばゆいばかりの金線が出来てつつましく輝きながら打ち笑む様を見た時に、―――― やがて見て居るうちにはわけのわからない涙がにみじ出して心の中には只嬉しさと謙譲と希望に満ちてその美の中に自らが呼吸・・・ 宮本百合子 「繊細な美の観賞と云う事について」
・・・ 思いきって威張ってほこり顔な美くしさも時にはまたなく美くしいものだけれ共、ぶなの輝きが少しでも高ぶった気持をもって居たら私はきっと見向きもしなかっただろうに―― 私は幸にもぶなの木魂が謙譲のゆかしさを知って居て呉れた事を心からうれ・・・ 宮本百合子 「旅へ出て」
人類が、生命の本然によりて掛ける祈願の前に、私共は謙譲であり、愛に満ちてありたい。 あらゆる悲惨の彼方へ、あらゆる不正と、邪悪との彼方へ! 其れは利己的な、一寸法師の「我」が探求する事なのではないのだ、と想う。お互の魂・・・ 宮本百合子 「断想」
・・・ いつも謙譲に、その人々は美くしいものを、讃め、尊ぶことを知っていたと同時に、讃めるにも、尊ぶにも「彼自身」をなくして出来るだけ多勢群れている方へと、向う見ずに走って行くような人ではなかった。 ほんとに小さな者の前で、急に膨れ上るか・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
出典:青空文庫