・・・ 近ごろ見た書物に、蜜蜂が花野の中で、つぼみと、咲いた花とを識別するのは、彼らにものの形状を弁別する能力のあるためだということが書いてあった。すなわち星形や十字形のものと、円形のものとを見分けることができるというのである。 しかし甘・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・音楽の方はかなりまで好い加減に色々に変化させても、やはり同じものとして認め得られるが、人間の言語はそれがただほんのごくわずかでも変形すればもはや全然別のものに変って識別出来なくなってしまうのである。 それはとにかく、講演でも自分のよく知・・・ 寺田寅彦 「ラジオ雑感」
・・・かの写生文を標榜する人々といえども単にわが特色を冥々裡に識別すると云うまでで、明かに指摘したものは今日に至るまで見当らぬようである。虚子、四方太の諸君は折々この点に向って肯綮にあたる議論をされるようであるが、余の見るところではやはり物足らぬ・・・ 夏目漱石 「写生文」
・・・それからこの知を割り、情を割り、その作用の特性によってまたいろいろに識別して行きます。この方面は主として心理学者と云うものが専門として担任しているから、これらの人に聞くのが一番わかりやすい。もっとも心理学者のやる事は心の作用を分解して抽象し・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・本当の報告文学が若い女性によって一つでも多く書かれるようになれば、とりも直さずそれだけ若い女性の生活態度も社会的な眼をひろめ、識別をひろめたことになるのだと思います。ルポルタージュと感想文とのちがいをもう一度改めて考えて行くのに役立つように・・・ 宮本百合子 「ルポルタージュの読後感」
・・・茉莉や杏奴という日本語として字の伝統的感覚においても美しくしかもそのままローマ綴にしたとき、やはり世界の男が、この日本名の姓を彼らの感情に立って識別できるように扱われているところにも、私は鴎外の内部に融合していた西と東との文化的精髄の豊饒さ・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
・・・ この書を通読すれば、おそらく誰の目にも性質の異なる部分が識別せられるであろうと思う。は高坂弾正の立場で物を言っている部分である。は信玄一代記と山本勘助伝とのからみ合わせで、勘助の子の禅僧が書き残した記録を材料としたであろうと思われる。・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫