・・・ 右条々のごとく、上下両等の士族は、権利を異にし、骨肉の縁を異にし、貧富を異にし、教育を異にし、理財活計の趣を異にし、風俗習慣を異にする者なれば、自からまたその栄誉の所在も異なり、利害の所関も異ならざるを得ず。栄誉利害を異にすれば、また・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・この一区に一所の小学校を設け、区内の貧富貴賤を問わず、男女生れて七、八歳より十三、四歳にいたる者は、皆、来りて教を受くるを許す。 学校の内を二に分ち、男女ところを異にして手習せり。すなわち学生の私席なり。別に一区の講堂ありて、読書・数学・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
・・・本来無き家産を新たに起すは、もとより難しといえども、すでに有る家産を守るもまた、はなはだ易からずして、その難易はいずれとも明言し難きほどのものなれば、貧富ともに勉むべきは学問にして、ただその教場をして仙境ならしめざること、吾々のつねに注意し・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・その廃学するとせざるとは、たいてい家の貧富の割合にしたがうものにして、廃する者は多く、廃せざる者は少なし。飢寒と教育と正しく相対してその割合の違わざること、もって知るべし。 されば今、日本国中に小学の生徒は必ず中途にて廃学すること多き者・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・一 前条は学問と言う可き程のことにあらず、貴賤貧富に論なく女子教育の通則として、扨学問の教育に至りては女子も男子も相違あることなし。第一物理学を土台にして夫れより諸科専門の研究に及ぶ可し。之を喩えば日本の食物は米飯を本にし、西洋諸国はパ・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・天下広し家族多しといえども、一家の夫婦・親子・兄弟姉妹、相互いに親愛恭敬して至情を尽し、陰にも陽にも隠す所なくして互いにその幸福を祈り、無礼の間に敬意を表し、争うが如くにして相譲り、家の貧富に論なく万年の和気悠々として春の如くなるものは、不・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ 勿論上下、貴賤、貧富の差はあっても、同じ様に男女関係を骨子としてある。 そのなりゆきを序す筆の達者さ、巧な人物の描写法、活用法に一つ一つ独立させて、異った時に読めばあきる事をしらないのである。 いかにも、上手に書かれてあると思・・・ 宮本百合子 「紅葉山人と一葉女史」
・・・そのように、小説をかく婦人と児童のために書く婦人とは、めいめいの文学の天質のちがいに立っているのであって、程度の高低だの資質の貧富によるのでないということが、はっきりされて来なければならない。 そして、このような成長も、考えてみれば、つ・・・ 宮本百合子 「子供のためには」
・・・資本主義の社会そのものが、社会に貧富の差を生み出し、働く人々の階級と働かせて無為に富む階級とをつくり出した。しかもその社会の本質は、自力でその矛盾を解決する力を失っているから恋愛、結婚における貞潔の社会的根拠というものも保証しかねているので・・・ 宮本百合子 「貞操について」
・・・一八二〇年といえば日本では徳川時代の文政三年、一茶だの塙保己一だのという人が活躍した時代、イギリスは植民地インドからの富でますます豊かになりながら、一方にうめることのできない貧富の差を示して来たヴィクトーリア女皇の時代である。 少女とし・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
出典:青空文庫