・・・また、べつの親戚の娘は、女学校の入学試験に落第したのは、親戚に私のような悪評嘖々たる人間がいるからであると言って、私に責任を問うて来た。ある大家が私の作品を人間冒涜の文学であり、いやらしいと言ったという噂が伝わった時、私は宿屋に泊っても変名・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・ そんな責任は俺にはないはずだ。万事は君が社と交渉していたのじゃないか……それをどこまでも白ばくれて、作家風々とか言って、万事はお他人任せといった顔して……それほどならばなぜ最初から素直に友人に打明けて、会のことを頼まないのか? 君はいつも・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・ しかしかかる評価とは、かく煙を吐く浅間山は雄大であるとか、すだく虫は可憐であるとかいう評価と同じく、自然的事実に対する評価であって、その責任を問う道徳的評価の名に価するであろうか。ある人格はかく意志決定するということはその人格の必然で・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ ここには、内地に於けるような、やかましい法律が存在していないことを彼等は喜んだ。責任を問われる心配がない××××と××は、兵士達にある野蛮な快味を与える。そして彼等を勇敢にするのだった。 武器の押収を命じられていることは、殆んど彼・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・班の責任者が、「中山さんのお母さんです。中山さんはとう/\今度市ヶ谷に廻ってしまったんです。」 といって、紹介した。 中山のお母さんは少しモジ/\していた。 私は自分の娘が監獄にはいったからといって、救援会にノコ/\やっ・・・ 小林多喜二 「疵」
・・・近所の人達は、親の責任を果さないと云って、悪く云います。中には、世間並の交際などは出来ない者として噂する者さえありました。バニカンタは、何不自由ない暮をし、毎日二度ずつも魚のカレーを食べられる程だったので、彼を憎んでいる者が、決して無いでは・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・ 責任が重いんだぜ。わからないかね。一日一日、責任が重くなっているんだぜ。もっと、まともに苦しもうよ。まともに生き切る努力をしようぜ。明日の生活の計画よりは、きょうの没我のパッションが大事です。戦地に行った人たちの事を考えろ。正直はいつ・・・ 太宰治 「或る忠告」
・・・無論記事の全責任は記者すなわち著者にあることが特に断ってある。 一体人の談話を聞いて正当にこれを伝えるという事は、それが精密な科学上の定理や方則でない限り、厳密に云えばほとんど不可能なほど困難な事である。たとえ言葉だけは精密に書き留めて・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・道太はあの時病躯をわざわざそのために運んできて、その翌日あの大地震があったのだが、纏めていった姪の縁談が、双方所思ちがいでごたごたしていて、その中へ入る日になると、物質的にもずいぶん重い責任を背負わされることになるわけであった。それを解決し・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・いわゆる責任ある地位に立って、慎重なる態度を以て国政を執る方々である。当路に立てば処士横議はたしかに厄介なものであろう。仕事をするには邪魔も払いたくなるはず。統一統一と目ざす鼻先に、謀叛の禁物は知れたことである。老人の※には、花火線香も爆烈・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
出典:青空文庫