・・・また上士の輩は昔日の門閥を本位に定めて今日の同権を事変と視做し、自からまた下士に向て貸すところあるごとく思うものなれば、双方共に苟も封建の残夢を却掃して精神を高尚の地位に保つこと能わざる者より以下は、到底この貸借の念を絶つこと能わず。現に今・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・「そりゃあってよ、どこだって貸すわ、でも――もし来るんならそんなことしないだって、家へいらっしゃいよ」「二三日ならいいけど」「永くたっていいわ、私永いほど結構! ね? 本当に家へいらっしゃいよ、淋しくってまいるんだから」「い・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・「――でも、あなた自分の歯楊子をひとに貸す?」 メーラはインガの質問をはぐらかした。「ああ、私丁度歯楊子をなくしたところだった。どうもありがとう。思い出さしてくれて!」 インガは考えるのであった。自分は工場管理者という自分の・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・子供が四人いるときくと貸す人がなかった。やっと友人の助けで小部屋が二つ見つかった。家主がマルクス一家のシーツからハンカチーフ迄差押え、子供のおもちゃから着物まで差押えたときくと、あわてた薬屋、パン屋、肉屋、牛乳屋が勘定書を持って押かけて来た・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・――ついでに、一寸手を貸すかな。真実は根もない憎みや恐怖や、最大の名薬「夢中」を撒くと、同類の胸も平気で刺すから愉快なものだ。ヴィンダー さてもう一息だ。俺の力の偉大さは、小さなものには著わされぬ。あの壮麗らしく人工の結晶を積みあげた街・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・ 場末の御かげでかなり広い地所を取って、めったに引越し騒ぎなんかしない家が続いて居るので、ポツッと間にはさまった斯う云う家が余計五月蠅がられたり何かして居るのである。 貸すための家に出来て居るんだから人が借りるのに無理が有ろう筈もな・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・ 此から幾年か居る、その家を貸すものに、唯利害関係からではなく、真個に人の世の生きるらしい友情と好感とを以て接して行けると云うことは、特別、家主、店子の関係に於て嬉しく思われたのである。 幾度も本郷、牛込、青山を往復し、家は、遂に我・・・ 宮本百合子 「又、家」
・・・このごろこの土地を人買いが立ち廻るというので、国守が旅人に宿を貸すことを差し止めた。人買いをつかまえることは、国守の手に合わぬと見える。気の毒なは旅人じゃ。そこでわしは旅人を救うてやろうと思い立った。さいわいわしが家は街道を離れているので、・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
出典:青空文庫