・・・四月四日 日曜で早朝楽隊が賛美歌を奏する。なんとなく気持ちがいい。十時に食堂でゴッテスディーンストがある。同じ事でも西洋の事は西洋人がやっているとやはり自然でおかしくない。四月五日 朝甲板へ出て見ると右舷に島が二つ見える。窓・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・そのかわりまた、ちょっと見ると変なようでも読んでいるうちにだんだんおもしろくなって来るようなものがあれば、だれがなんと批評しようが自然に賛美者の数を増してくるであろう。それで、志のある人はなんの遠慮もなく、ありとあらゆる新型式をくふうして淘・・・ 寺田寅彦 「俳句の型式とその進化」
・・・ 物質と生命をただそのままに祭壇の上に並べ飾って賛美するのもいいかもしれない。それはちょうど人生の表層に浮き上がった現象をそのままに遠くからながめて甘く美しいロマンスに酔おうとするようなものである。 これから先の多くの人間がそれに満・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・ 現代科学の花や実の美しさを賛美するわれわれは、往々にしてその根幹を忘却しがちである。ルクレチウスは実にわれわれにこの科学系統の根幹を思い出させる。そうする事によってのみわれわれは科学の幹に新しい枝を発見する機会を得るのであろう。 ・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・しからずんば、いたずらに筆を援りて賛美の語をのべ、もって責めを塞ぐ。輓近の文士往々にしてしかり。これ直諛なるのみ。余のはなはだ取らざるところなり。これをもって来たり請う者あるごとにおおむねみな辞して応ぜず。今徳富君の業を誦むに及んで感歎措く・・・ 中江兆民 「将来の日本」
・・・あとのさびしい夜の灯の下であの雑誌を読み、せめてそこから日本軍の勝利を信じるきっかけをみつけ出そうとしていた日本の数十万の婦人たちは、なにも軍部の侵略計画に賛成していたからでもなければ、某誌の軍国調を讚美していたからでもないであろう。あのこ・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・は、誰でもあの詩歌の世界で、実にすなおに率直に男女の心持が流露されているのを知っているが、あのなかには沢山の可愛い女、美しい女、あでやかな女を恋い讚えた表現があるけれども、一つも女らしい女という規準で讚美されている女の例はない。これは本当に・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・として万葉王朝時代の文化の讚美をおこなった。そのことは、こんにちの亀井勝一郎のジャーナリズムでの活躍の本質と決して無縁なものではない。日本の現代文学の中になにかの推進力として価値あるものをもたらした人々は、北村透谷、二葉亭四迷、石川啄木、小・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
此頃、自然美の讚美され出して来た事は、自然美崇拝の私にとってまことに嬉しく感じる事である。 どうして今まで、ああして、そうもかまわれずに片隅になげた様にされて居たものかしらんと思う。 静かに太陽の健な呼吸を聞き、月・・・ 宮本百合子 「雨滴」
・・・大鎌の奇怪なる角度より発散する三角形の光りの細胞は舞上り舞下りて闇黒の中に無形の譜を作りて死を讚美し祝し―― おどり狂う――大鎌をうちふりうちふりてなぎたおされんものをあさりつつ死は音もなく歩み・・・ 宮本百合子 「片すみにかがむ死の影」
出典:青空文庫