・・・アカデミックな国文学者の著になる和泉式部の研究を土台として、一躍情熱の女詩人与謝野晶子への讚美となることの腑に落ちなさは一般文化人の胸にありつつ、何故輿論としてそれが発言されないのであろうか。文学に即して見れば、従来の国文学研究が実社会から・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・の婦人と云えば、只一口に、何、アメリカのお転婆女は、男を圧迫して、暴威を振う事ほか知らないのだとけなす人もあれば、否左様ではない、アメリカの女位知的で、活動的で、芸術的で、総ての点に完全な婦人はないと讚美する人もございます。 どっちが正・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 私は心からこの美を讚美する。 そして又地球が滅びてもなお此ればっかりは滅びると云う事を知らないで輝いて居るものである事を信じる。 美はどこの暗い中にでも冷っこい隅にでもあるものだ、その普通の美よりももっと尊い美がより沢山ある事・・・ 宮本百合子 「繊細な美の観賞と云う事について」
・・・しかしこれらの人すべてが侵略戦争を心から賛美していたとするのはあやまりです。ジャーナリズムの統制がきびしくなり軍御用の作家でなければ作品発表がゆるされなくなったとき、ブルジョア出版社の出版からの収入でそれぞれ「有名な婦人作家」として存在して・・・ 宮本百合子 「戦争と婦人作家」
・・・彼等は感歎し、讚美する。端厳微妙な顔面の表情や、腕、脚の霊活な線について。よき芸術にふれた歓喜を、彼等は各々多くの場合専門語で表現するに違いない。そう本ものの美術観賞家とも生れついていまい若者は、傍でそれ等テクニカル・タームの数々を耳に浚い・・・ 宮本百合子 「宝に食われる」
・・・ 私は自然の美くしさの讚美者なんです。 ギリシア神話は今我々の実際に見られないもんです、見ようと思うには必ず何か芸術的な何物かを通してでなければ出来なくて丁度―― ええ太陽の微笑を浴びなければ見られない銀器のあの美くしさの様なも・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・ と讚美する口葉の、丁度したののみつからない光君の心は人の世、この世の中にないものにまでそのめでたさをたとえて居たが若い頭の中を一っぱいに占領してはげしい形容詞をもとめて居る、美くしいと云う感情を満足させる事は出来なかった。紫の君の何も思わ・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・小さい、小さい箇人の力――自分は彼を思うと、陽気に自分の幸福を讚美したり、楽しさに有頂天に成っては居られない心持に成って来る。私が、何としても、自分が健康で、活気に満ちて、生活に対する意力を感じて居るのは事実である。その明快な自分を傍観する・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
・・・ 快く晴れ渡った日、四方を取り巻いた山々の姿を見た時、誰でもその特長ある、目覚しさを讚美しないものはないのである。 雪の皆流れ落ちた処、まだ少し残った処、少しも消えない処、等によって皆異った色彩を持って居る。 皆雪の流れた処は、・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・行って、それらの芸術の逸品に籠っている高い気品、精魂、芳香に面をうたれて、今更に古典の美を痛感すると一緒に分別をも失って、それぞれの芸術のつくられた環境の意味と今日の私たちの現実との関係を見失った欽仰讚美の美文をつらねる流行をも生じた。私は・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
出典:青空文庫