・・・ 一方は痩せて髪を長く分けた二十代の男で、一方は三十五六の赤ら顔の男に違いない。 若い方は洋服で、太い声は和服のきっと幅広の帯をしめて居る事が、声で想像されるのである。 しばらくすると、端唄や都々逸らしいものを唄い出して、それも・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・肥満した、赤ら顔の、八字髭の濃い主人を始として、客の傍にも一々毒々しい緑色の切れを張った脇息が置いてある。杯盤の世話を焼いているのは、色の蒼い、髪の薄い、目が好く働いて、しかも不愛相な年増で、これが主人の女房らしい。座敷から人物まで、総て新・・・ 森鴎外 「鼠坂」
・・・そのうち結城紬の単物に、縞絽の羽織を着た、五十恰好の赤ら顔の男が、「どうです、皆さん、切角出してあるものですから」と云って、杯を手に取ると、方方から手が出て、杯を取る。割箸を取る。盛んに飲食が始まった。しかし話はやはり時候の挨拶位のものであ・・・ 森鴎外 「百物語」
出典:青空文庫