・・・この気合で押して行く以上はいかに複雑に進むともいかに精緻に赴くともまたいかに解剖的に説き入るとも調子は依然として同じ事である。 余は最初より大人と小児の譬喩を用いて写生文家の立場を説明した。しかしこれは単に彼らの態度をもっともよく云いあ・・・ 夏目漱石 「写生文」
・・・圧迫するのじゃないが、流行にこっちから赴くのです。イミテーターとして人の真似をするのが人間の殆ど本能です。人の真似がしたくなるのです。こういう洋服でも二十年前の洋服は余り着られない。この間着ていた人を見たけれども可笑しいです。あまり見っとも・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・の意味を広くしていえば、政治もまた学問中の一課にして、政治家は必ず学者より出で、学校は政談家を生ずるの田圃なれども、学校の業成るの日において、その成業の人物が社会の人事にあたるに及びては、おのおのその赴くところを異にせざるをえず。工たり、商・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・というのは、当時文学者として自分ぐらいの者になっているものはいいが、まだ人の世話になって小説の修業をしているような文学青年は、ペンをすてて戦場へ赴くべきだといった室生犀星をはじめとして、能動精神をとなえた作家のすべてをひっくるめて、文学は戦・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・このグループの作家たちが役所に使われる者ででもあるかのように「某々氏、農民文学懇話会の依嘱により何々地方へ視察旅行に赴く。」というような表現で消息を書かれた雰囲気も類のないことの一つであった。 文学の外の力との経緯からそのような動きを示・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・誰でも感じなければならないこの不調和は、主観のみの世界に閉じこもって、客観的な妥当性をまるで具備しない魂の燃え上るがまま、美点も欠点も自分の傾向の赴くままに従っていた彼女の上において、特に著しかったのである。 けれども、生れたばかりの赤・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・自分の方でも避けているので、まったく独りぼっちの彼は一日中裸足の足の赴くがままに、山や河を歩きまわっていたのである。 どこへ行っても山は美しい。 面白いもので一杯にはなっているけれども、彼の一番お気に入りなのは、元二人の姉達がいた時・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・今日のブルジョア文学が段々貧弱になって行くのもそれで、谷崎潤一郎、佐藤春夫などの大家連が滔々として復古主義に赴くのも、没落せんとする者の逃避に他なりません。 そして、一方新しい文学の光は新興プロレタリアートの陣営に輝きそめています。・・・ 宮本百合子 「婦人作家の「不振」とその社会的原因」
出典:青空文庫