・・・家のうしろは、ちょっとした空地で、まん中に何かをたてようとした足場らしいものが、くずれかけたまま、ほうりっぱなされており、ぐるり一面にはごみくずや、いろんなきたならしいものが、ごたごたすててあります。犬はその空地の片すみにころがっている、底・・・ 鈴木三重吉 「やどなし犬」
・・・いまは『春服』をぼくの足場にする希望もない。十月頃送った百枚位の小説はどうなっておるか。いっそ、破ったほうがいい。いっそ、懸賞募集を狙いましょうか。黙ってる方がかしこいでしょう。然し、太宰治さん、できたら、ぼくに激励のお手紙を下さい。もう四・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・物に行っても味わうことの六かしいと思われる競馬というスポーツの最高度のスリルを味わわせる映画で、すべての物語の筋道などは、ただこのクライマックスの競馬の場面の鋭いスリルを鋭くするために細かく仕組まれた足場として見ることも出来る。実際の競馬で・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(5[#「5」はローマ数字、1-13-25])」
・・・と名づけることがいけなければ、科学はその足場を失うであろう。 もう一つの困難は、感官の「読み取り」が生理的心理的効果と結びついて、いろいろな障害を起こす心配のあるということである。これはしかし、修練による人間そのものの進化によって救われ・・・ 寺田寅彦 「感覚と科学」
・・・そしてその上に未来の足場を建ててみよう。もしそれが出来たら「厄年」というものの意義が新しい光明に照らされて私の前に現われはしまいか。 こう思って私は過去の旅行カバンの中から手捜りに色々なものを取り出して並べて見ている。 先ず色々の書・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・を思い出してそれを足場にした付け句を案じるであろう。そうしてその時同時に頭に浮かんだ「箸」の心像をそこで抑圧しておくと、それがその後の付け句の場合にひょっくり浮かび上がって来て何かの材料になることもありうるであろう。 こういう事は古人の・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・その波風の間で、では、何がわたしたちの日夜、まともに伸びたいとねがっている人間性の砦となり、その人の文学の足場となってゆくのだろう。 平凡だと思われるほどすりへることのない一つの真実がある。それは、一人一人のひとが、自分のまともに生きよ・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・旧市街はその下に午後のうっすり寒い光を照りかえしている。足場。盛に積まれつつある煉瓦。 十月二十八日。 水色やかんを下げてYが、ヒョイヒョイとぶような足つきで駅の熱湯供給所へ行く後姿を、自分は列車のデッキから見送っている。あたり・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・従って、彼より憎らしい女になる時がある代り、その強さが素直に出た時、私が辛じて、天に達する階子のありかを知ることの出来る足場となるのだ。」「或女」以後、私は、彼の作品が、或行き詰りを持ち始めたことを知った。読んで見ると、精神の充実したフ・・・ 宮本百合子 「有島武郎の死によせて」
・・・なぜなら、旧体制の残る力は、これを最後の機会として、これまで民衆の精神にほどこしていた目隠しの布が落ちきらぬうち、せいぜい開かれた民衆の視線がまだ事象の一部分しか瞥見していないうち、なんとかして自身の足場を他にうつし、あるいは片目だけ開いた・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
出典:青空文庫