・・・嘉助はまるで手をたたいて机の中で踊るようにしましたので、大きなほうの子どもらはどっと笑いましたが、下の子どもらは何かこわいというふうにしいんとして三郎のほうを見ていたのです。 先生はまた言いました。「きょうはみなさんは通信簿と宿題を・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・華の花のように波に浮んでいるのも見たし、また沢山のジャンクの黄いろの帆や白く塗られた蒸気船の舷を通ったりなんかして昨日の気象台に通りかかると僕はもう遠くからあの風力計のくるくるくるくる廻るのを見て胸が踊るんだ。すっとかけぬけただろう。レコー・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・猟をするか踊るかしてるんですよ。」青年はいまどこに居るか忘れたという風にポケットに手を入れて立ちながら云いました。 まったくインデアンは半分は踊っているようでした。第一かけるにしても足のふみようがもっと経済もとれ本気にもなれそうでした。・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・ヨーロッパの風俗で、夜会などで一つ踊るにも女は男の選択に対して受け身の積極性を発揮しなければならないようなところでは、先の警句も、それなり通じた面もあろう。いわば近代的な後宮の女性めいた関係なのであるから。私たちの周囲で、女同士の友情を信じ・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・ 食堂の出まどに腰をかけて、楓の茂みの中から響いて来る音に注意すると、Haydn のものらしい軽い踊る様な調子がよく分る。 弾手は男かしら女かしら。 女の人にしては少し疎雑な手ぶりがあるが、いつの間にとりよせたか、来たかしたんだ・・・ 宮本百合子 「一日」
・・・いるようなごろた石を鋪道にしたような裏通りまで、カフェーの前あたりはもとより往来のあっちからこっち側へと一列ながら花電球も吊るされ、青い葉を飾った音楽師の台が一つの通りに一つはつくられて、街という街は踊る男女の群集で溢れる。 外国人のた・・・ 宮本百合子 「十四日祭の夜」
・・・なるほど、南洋土人が、この樹の下で踊るには、白く塗ったところへぞッとする模様を描いた巨大な仮面でもかぶらなければ追つくまいと思う。 また大淀まで、今度は軽便鉄道で戻るのだが、道々、私共は本当に見渡す限り快闊な日向の風好を愛した。高千穂峯・・・ 宮本百合子 「九州の東海岸」
・・・浜の砂の上に大きな圏を作って踊る。男も女も、手拭の頬冠をして、着物の裾を片折って帯に挟んでいる。襪はだしもあるが、多くは素足である。女で印袢纏に三尺帯を締めて、股引を穿かずにいるものもある。口々に口説というものを歌って、「えとさっさ」と囃す・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・公共の任務のために忙しく自動車を駆るものは致し方がないが、私利をはかるために、またはホテルで踊るために、自動車を駆るものに対しては、父は何を感ずるであろう。天下万民が「おのおのその志を遂げ、人心をして倦まざらしめんことを要す」とは、明治大帝・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
・・・同じ面がもし長唄で踊る肢体を獲得したならば、さらにまた全然別の面になってしまうであろう。 以上の考察から我々は次のように言うことができる。面は元来人体から肢体や頭を抜き去ってただ顔面だけを残したものである。しかるにその面は再び肢体を獲得・・・ 和辻哲郎 「面とペルソナ」
出典:青空文庫