・・・この大回転大軋轢は無際限であろうか。あたかも明治の初年日本の人々が皆感激の高調に上って、解脱又解脱、狂気のごとく自己を擲ったごとく、我々の世界もいつか王者その冠を投出し、富豪その金庫を投出し、戦士その剣を投出し、智愚強弱一切の差別を忘れて、・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・ わたくしの父は、生前文部省の役人で一時帝国大学にも関係があったので、わたくしは少年の頃から学閥の忌むべき事や、学派の軋轢の恐るべき事などを小耳に聞いて知っていた。しかしこれは勿論わたくしが三田を去った直接の原因ではない。わたくしの友人・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・或は上士と下士との軋轢あらざれば、士族と平民との間に敵意ありて、いかなる旧藩地にても、士民共に利害栄辱を與にして、公共のためを謀る者あるを聞かず。故に世上有志の士君子が、その郷里の事態を憂てこれが処置を工夫するときに当り、この小冊子もまた、・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・だが私は、最も人間性の発展、独自性、時代性、そこに生じるさまざまの軋轢、抗争の価値を理解する筈の芸術家の生活の中でも、親子の関係は人間的先輩が次代の担いてである若い人間を観るという風に行っていない場合が多く、よきにせよ、あしきにせよ、家長風・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・些細な日常の感情軋轢を整理することをおのずから学ぶであろうし、その点では、仕事そのものの上達につれて二重の賢さ、生活術を会得してゆくわけになります。この事は実際上、良人や子供の理解なしにはなりたたないから、好都合な事情で運べば、よい妻、いい・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・は糞尿汲取の利権をめぐる地方の小都市の政党的軋轢を題材として、文章の性格は説話体であり、石坂洋次郎などの文章の肉体と相通じた一種のねっとりとした線の太さ、グロテスクな味いを持ったものであった。題材は社会的な素材を捉えながら文学としての特質は・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・作者は姑との軋轢に苦しむアサ夫婦の心持を、旧套の力がのしかかる大さの感覚でうけて観ており、後半では作者自身の理想に立ってアサの成長を描いているようにも思える。アサが、誰にも負けるもんか、負けるものかと思っている、そういう前半の自然発生な女の・・・ 宮本百合子 「徳永直の「はたらく人々」」
・・・トルストイの当時の心持の中には、夫人との軋轢が一つの鋭いとげとなっていたかも知れない。しかしゴーリキイは非常に公平に一人の人間としてトルストイ夫人を見ている。トルストイ夫人が所謂トルストイアンのいかがわしい連中にとり囲まれている夫に向って「・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイによって描かれた婦人」
・・・小説の中で、彼は、旧来の義理人情というものが自然であるべき人間相互の関係を歪め、そこから生じた不調和や偽善に対して、人間的な、自覚をもつ我、及び自然的人間情緒が捲き起さざるを得ない軋轢と相剋とを描き得た。「それから」「門」「彼岸過迄」等、い・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
出典:青空文庫