・・・が、流人とは云うものの、おれたちは皆都人じゃ。辺土の民はいつの世にも、都人と見れば頭を下げる。業平の朝臣、実方の朝臣、――皆大同小異ではないか? ああ云う都人もおれのように、東や陸奥へ下った事は、思いのほか楽しい旅だったかも知れぬ。」「・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・権的であるということも、従って都会人は、ようやく此生活から離れて行くがために、いよ/\変則的な生活を営むということも、また中央集権的なるが故に、文化がこゝのみに発達して、都会人の生活は、問題にされるが辺土の生活は顧みられないということも、所・・・ 小川未明 「街を行くまゝに感ず」
・・・この王を和奴和奴王というた、この王もこの国の民も非常に犬を愛する風であったがその国に一人の男があって王の愛犬を殺すという騒ぎが起った、その罪でもってこの者は死刑に処せられたばかりでなく、次の世には粟散辺土の日本という島の信州という寒い国の犬・・・ 正岡子規 「犬」
・・・ 風景は、モスクワを出た当座の豊饒な黒土地方、中部シベリアの密林でおおわれた壮厳な森林帯の景色とまるで違い、寂しい極東の辺土の美しさだ。うちつづく山のかなたは、モンゴリア共和国である。 十一月二日。晴れたり曇ったり。 列車の・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・を読むだけでいい、帝政時代の権力は、自分たちをこやすために搾取するための植民地、属国、だましやすい辺土の住民としてだけ彼等を思い出した。 コーカサスの雄大極まりない山嶽を南へ縫ってウラジ・カウカアズから、スターリンの故郷チフリースまで、・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・彼等は、封建時代のロシアの辺土から起って、時の支配者に反抗した連中だ。が、一揆的な反抗は成功しないで捕われ、モスクワへ連れて来られた上今も赤い広場にある首切台で、処刑された。 室が、一つ一つ進むにつれ、だんだん面白い写真がふえて来る・・・ 宮本百合子 「ロシアの過去を物語る革命博物館を観る」
出典:青空文庫