・・・けれども、若いすぐれた資質に接した時には、若い情熱でもって返報するのが作家の礼儀とも思われます。自分は、ハンデキャップを認めません。体当りで来た時には、体当りで返事をします。 今日は、君の作品に就いてだけ申し上げました。君のお手紙の言葉・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・彼女の男性嘲笑は、その結婚に依り、完膚無きまでに返報せられた。婚礼の祝宴の夜、アグリパイナは、その新郎の荒飲の果の思いつきに依り、新郎手飼の数匹の老猿をけしかけられ、饗筵につらなれる好色の酔客たちを狂喜させた。新郎の名は、ブラゼンバート。も・・・ 太宰治 「古典風」
・・・ どこに、自分等の大切な家族の一員の命を救ってくれたものに対して、悪い返報をするもの、また出来るものがいるだろう。 浅間しい疑を抱く自分を彼はひそかに赤面しながら、どこまでも、親切ずくのこととして信じようとしていたのである。 け・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・また先方にも過誤がある場合には、それを捉えて罵詈の返報をすることも出来る。必ずしも自ら屈して自家の過誤だけを発表しなくても好い。然るに私はここにそれを敢てしようと思う。私は公に謝するのだと云った。それは美徳である。自分の行為が美徳に合うこと・・・ 森鴎外 「不苦心談」
・・・説去廿七日の出来事は実に驚愕恐懼の至に不堪、就ては甚だ狂気浸みたる話に候へ共、年明候へば上京致し心許りの警衛仕度思ひ立ち候が、汝、困る様之事も無之候か、何れ上京致し候はば街頭にて宣伝等も可致候間、早速返報有之度候。新年言志み・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫