・・・花一輪に託して、自己のいつわらぬ感激と祈りとを述べるがよい。きっと在るのだ。全然新しいものが、そこに在るのだ。私は、誇りを以て言うが、それは、私の芸術家としての小さな勘でもって、わかっているのだ。でも、私には、それを具体的には言えない。私は・・・ 太宰治 「鴎」
・・・ 映画成立の最後の決定的過程として編集術については以下に項を改めて述べる事とする。 映画の編集過程 たくさんな陰画の堆積の中から有効なものを選び出してそれをいかにつなぎ合わせるかがいわゆるモンタージュの仕事である・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・もっとも旋風は多くの場合に雷雨現象と連関して起こるから、その点で後に述べる時間分布の関係から言って多少この説に有利な点はある。しかしいわゆる光の現象やまた前述のまじないの意味は全くこれでは説明されない。 これに反して、ギバがなんらかの空・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・ 壇上の人が下りると、上壇に椅子へ腰かけた人、これが議長だそうであるが、この人が何か一言二言述べると、左の方の議員席からいきなり一人立上がって大きな声でわめき立てた。片手を高く打ち振りながら早口に短い言葉を連発していた。今にも席から飛び・・・ 寺田寅彦 「議会の印象」
・・・ 陶工が陶土およびその採掘者に対して感謝の辞を述べる場合は少ない。これは不都合なようにも思われるが、よく考えてみると、名陶工にはだれでもはなれないが、土を掘ることはたいていだれにでもできるからであろう。 独創力のない学生が、独創力の・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・その理由は無論明白な話で、前詳しく申上げた開化の定義に立戻って述べるならば、吾々が四五十年間始めてぶつかった、また今でも接触を避ける訳に行かないかの西洋の開化というものは我々よりも数十倍労力節約の機関を有する開化で、また我々よりも数十倍娯楽・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・述作に対すると思いついた事をいい加減に述べる。だから評し尽したのだか、まだ残っているのか当人にも判然しない。西洋も日本も同じ事である。 これらの条項を遺憾なく揃えるためには過去の文学を材料とせねばならぬ。過去の批評を一括してその変遷を知・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・それを矯める方法を御話しするためにわざわざこの壇上に現われたのではないから詳しい事は述べませんが、また述べるにしたところで大体はすでに諸君も御承知の事であるが、まあ物のついでだから一言それに触れておきましょう。すでに個々介立の弊が相互の知識・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・分化作用を述べる際につい口が滑って文学者ことに小説家の眼識に論及してしまったのであります。だからこれをもって彼らの使命の全般をつくしたとは申されない。前にも云う通りついでだから分化作用に即して彼らの使命の一端を挙げたのに過ぎんのである。した・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・そうした麻酔によるエクスタシイの夢の中で、私の旅行した国々のことについては、此所に詳しく述べる余裕がない。だがたいていの場合、私は蛙どもの群がってる沼沢地方や、極地に近く、ペンギン鳥のいる沿海地方などを彷徊した。それらの夢の景色の中では、す・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
出典:青空文庫