・・・そして、やっと逃げ出すとすぐ警察でつかまる。すぐ、事務的にもとの感化院へ送りかえされる。そこで待っているのは、きびしい懲罰であろう。「新しき塩」の中に語られているように、全員に対してお八つぬきが行われ、その憤懣が、はけどころを求めて、脱走し・・・ 宮本百合子 「作品のテーマと人生のテーマ」
・・・ ただ、フットボール競技場前の広場へ、アルバート広場に群っている通りな、いろんな物売りが出ていて、あっちから巡査がやって来るのを見るとパッと蜘蛛の子ちらすように逃げ出すところは、活々した日常生活の光景からの断片で、そこのところで笑わない・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・首をこごめて往来をのぞくと、右手に畳を縫って居る職人、向側の塵埃っぽい大硝子窓の奥で針を働して居る洋服工、つい俥の下で逃げ出す鶏を見乍ら丸髷に結った女と喋って居る若者迄悉く支那人だ。道のつき当りから山手にかかって、遙か高みの新緑の間に、さっ・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・ ああ、もう逃げちゃった、駄目じゃあありませんか坊っちゃんは、 鳥が来ると、貴方の方で逃げ出すんだもの。などと云って馳け廻って居る。 鶏の方で此方に飛んで来ると、キーキー悲鳴をあげて跳ね上ったり、多勢声をそろえてシッシッ・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・ 何ぞと云っちゃあ、一度捕えられて、人の家に飼われて居た時猫に目を片輪にされて、漸々逃げ出すと今度は又食べるもんがなくって、死にかけて居る所を又他の人につかまって、今度逃げて来たのは二度目だって云ってたじゃないか。 だから逃げる事だきゃ・・・ 宮本百合子 「一条の繩」
・・・幕内の生活に堪えられず、これも三月目に逃げ出す。しみじみ自分の無力をおもう。精進の気遽に高まり、岡本市太郎氏夫妻から最少限度の生活費を十ヵ月間恩借。すべてを勉強に打込む。傍らストリンドベリイの「死の舞踊」を翻訳し、洛陽堂から出版。 一九・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
出典:青空文庫