・・・ 自身攻撃されるのを防ぐために、有名人を攻撃するという、いわば相手の武器をとって、これを逆用するにも似た、そんなやり口を見て、おれは、さすがに考えやがったと思ったが、しかし、その攻撃文に「国士川那子丹造」という署名があるのを見て、正直な・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・トラストの支配人は、策動して労働者の工場管理者を陥いれ、遂に法律を逆用して、彼を工場から追払おうとしたりする例も、事実一度ならずあった。 こういう工場内の悪質な分子を、労働者出の管理者及び彼を支持する労働者群がどんな困難を経て、克服して・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・社会主義的リアリズムの創作方法の理論は、不幸にして日本につたえられた時期が、そういうプロレタリア芸術運動の潰走期であったために、忽ち、これまでの日本プロレタリア芸術運動の方針を否定する便宜な口実として逆用された。蔵原惟人、小林多喜二、宮本顕・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・しかし、これらの逆用されている智慧は、文化のひろびろとした開花をうながすには、暗く寒くありすぎた。 前田家のような大大名の藩で発達した文化が、能・茶の湯、宗教では禅であるということも意味がある。当時の社会生活から一応は游離して、精神と富・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・きょうの写真のおそろしさには、そういう科学の逆用がしのびこまされている。同時に、写真のまともな機能も、ずいぶん拡大された。社会のあらゆる場面の報告者。人生の各断面の語りて。写真がますます生活についたものとして扱われて来ていることは面白い。・・・ 宮本百合子 「きょうの写真」
・・・そこで、反革命分子がソヴェト法律を逆用して遂にその労働者出の工場管理者を国家保安部に捕縛させた。然し、工場内の革命的分子は、黙って見ていない。熱心な、階級的な彼等の努力が、最後に反革命分子の一人の心をうごかし自己批判をよびさました。そして、・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・自我の確立の意欲とその表現が、確立するべき自我の社会的歴史的な実体のありようをぬきにして語られつづけているうちに、やがてその言葉さえもいつしかさかさまの内容に逆用されている屈辱にたええなくなったのは、理性の自然である。 一九四八年の夏に・・・ 宮本百合子 「三年たった今日」
・・・軍国主義とファシズムに対する人民のしんからの嫌悪を逆用して、その名を戦争挑発反対者に冠らせ、内外の戦争挑発に対する抵抗分子を除去しようとする試みは、近代マキャベリズムの一つの着想として考えられないことではない。 この場合、日本の知性が、・・・ 宮本百合子 「世紀の「分別」」
・・・ 大衆といい、民衆といい、昨今は国民といい、極めて粗笨な全体主義でおおうたもののいいかたをし、而もその全体の水準を生活全面で最低まで押し下げておいて、全体という言葉の逆用によって、大衆とその一部としての知識人の進歩性を窒息させているのが・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・八月十五日の深夜に、事実無根の自白をおこなった被告横谷武男、もと技工、同分会闘争委員が、どのようにして数名の検事たちから彼の親思いの気持と共産党員として党組織を信頼している感情を逆用されて、理性の混乱につきおとされたかということは、公判廷で・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
出典:青空文庫