・・・ところが此処は朝夕学校への通り道でしたから毎日のように遊びに寄って、種々の読本の類を引ずり出しては、其絵を見るのと絵解を聞くのを楽しみにしました。勿論草双紙の類は其前から読み初めました。初めの中は変な仮名文字だから読み苦くって弱りましたが、・・・ 幸田露伴 「少年時代」
・・・尤も私の席はその風の通り路からすこし外れていましたから格別涼しかったわけでもありませんでしたが、それでも向うの書類やテーブルかけが、ぱたぱた云っているのを見るのは実際愉快なことでした。それでもそんな仕事のあいまに、ふっとファゼーロのことを思・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・横田いよいよ嘲笑いて、お手前とてもその通り道に悖りたる事はせぬと申さるるにあらずや、これが武具などならば、大金に代うとも惜しからじ、香木に不相応なる価をいださんとせらるるは若輩の心得ちがいなりと申候。某申候は、武具と香木との相違は某若輩なが・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
出典:青空文庫