・・・そういう功利的通念は、今や、オイ、御新邸を背負って華族の娘さんが嫁に来るぜ、という例外の一例とはなるかもしれないが、この結合を、社会的な評価で新しい内容をもつものであるといい得ないことは自明である。 われわれ個人の恋愛や結婚の幸福を、か・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・結婚、家庭生活について日本の社会通念が枠づけている息ぐるしい家族制度のしがらみ、娘・妻としての女が、人間らしいひろやかさと発展をもって生きたい女性にとって、どんなに窒息的なものであるかを、夫婦の性格的な相剋の姿とともに描き出そうとしている。・・・ 宮本百合子 「あとがき(『伸子』)」
・・・ 新聞の小説というものには、一定の通念がある。一回ごとにヤマがなければいけないとか、文章の上に一種のひっぱる力が要求されるとか。わたしにはとてもそういう条件がみたせないと思った。それで、そのときは、ことわってお貰いするように宮原さんにた・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・流れ動き生成する男女の結合こそ愛とよばれるべきものだと信じている一人の生活的な女にとって、当時の日本の通念であった家庭の平和の観念や、夫婦愛家庭愛における女の無主張の立場は恐怖を与えた。結婚にからむ親たちとの相剋も非条理に思えた。二十歳の女・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・の主人公は少年であるけれども、どうしてあの小説が既成の社会通念――大人の世界のものの考えかたの俗悪な形式主義への抗議でないといえよう。 デュガールの「チボー家の人々」が、一九三〇年代より四〇年代の若い人々にとって、特に意味をもっているわ・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・は、大正四年の作で、鴎外の歴史ものとしては、どれよりもはっきり、社会通念への疑問をテーマとしてかかれたものと思われる。「高瀬舟縁起」という文章で、鴎外は「翁草」によっているこの短い作の中に「二つの大きい問題が含まれていると思った」ことを述べ・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・そう呟く心持は、逆な方向と表現で、どうせ女は、という旧来の通念を我から肯定しているにほかならない。仕事の上で女として自分を守ったり主張したりするというのは、こういう、どうせに立脚した態度とは反対のものでなければならないと思う。女自身が女とし・・・ 宮本百合子 「女の歴史」
・・・女自身、ましてインテリゲンツィアの女のひとが、とかく抽象的に自己完成のための仕事を偏重して、それを正々堂々と職業として、それ相当な社会的評価を求めようとしなかった傾向はふるい社会の通念を計らずも裏から合せ鏡で照り返しているようなものだといえ・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・ もう一つの理由は、ゴーリキイが偉大な作家であるということが一般の通念になっているために、そこから二つの態度が生じている。その一つは、ゴーリキイを無条件にプロレタリア作家の先達であり、父であると見る態度であり、他の一つは、それに対してや・・・ 宮本百合子 「「ゴーリキイ伝」の遅延について」
・・・人権尊重ということは、正当な思想を抑圧して小林多喜二のような卓抜な一個の社会人・作家を撲殺するようなことが決して在ってはならないという通念を意味する。同時に、それを主体的に云えば、一個の社会人・芸術家は、自分の理性がさし示す歴史の前進の方向・・・ 宮本百合子 「今日の生命」
出典:青空文庫