・・・種々な人間が、天平、弘仁の造形美術の傑作を研究し、観賞しに奈良を訪ねる。本当の芸術愛好家なら、仏教の信仰をそのものとして奉持しなくても、美から来る霊的欽仰を仏像とその作者とに対して抱かずにはおられない。彼等は感歎し、讚美する。端厳微妙な顔面・・・ 宮本百合子 「宝に食われる」
・・・それをわれわれは、わが国の古墳時代の造形美術として取り扱うことができるのである。 わが国の古墳時代というと、西暦紀元の三世紀ごろから七世紀ごろまでで、応神、仁徳朝の朝鮮関係を中心とした時代である。あれほど大きい組織的な軍事行動をやってい・・・ 和辻哲郎 「人物埴輪の眼」
・・・ 考えてみると、古来の芸術的傑作には戦争に刺激せられてできたものが非常に多い。造形美術ではペルシア戦争後のアテナイの諸傑作などがその最も著しい例である。文学でも『イリアス』が戦争の詩である事は言うまでもなく、ダンテの『神曲』は十字軍から・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
出典:青空文庫