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・・・立ち話もそんな場所ではできず、前から部屋を頼んでおいた近くの逢坂町にある春風荘という精神道場へ行こうとすると、新聞の写真班が写真を撮るからちょっと待ってくれと言いました。それで、私たちは、秋山さんが私の肩に手を掛け、私は背の高い秋山さんの顔・・・
織田作之助
「アド・バルーン」
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・・・この上は逢坂なり。この名を聞きて思い出す昔の語り草はならぶるも管なるべし。さねかずらとはどんなものかしらず、蔦這いでる崖に清水したゝって線路脇の小溝に落つる音涼し。窓より首さしのべて行手を見るに隧道眼前にようぜんとして向うの口銭のまわりほど・・・
寺田寅彦
「東上記」