・・・ この考えを実証すべき例証をここに列挙することは略しても、こういう考えがそれ自身なんら新しいものでないことは読者に明らかなことである以上、現在の考察を進める上にたいした支障はないであろう。自分のここで言おうとすることは、そういう考えを承・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・その際もしも、その研究員が、更に進んでその欠点を除去し、その商品を完成するように研究の歩を進めるならば結構であるが、そうでなくて、その欠点を委細構わず天下に発表して、その結果その会社に多大な損失をかけ、事によるとその会社の存在を危うくするよ・・・ 寺田寅彦 「学問の自由」
・・・金相学者と界面化学者との協同によってこの方面の研究を進める事ができれば存外有益な効果をあげる事ができそうに思われるのである。 寺田寅彦 「鐘に釁る」
・・・これはしかし、修練による人間そのものの進化によって救われないものであろうか、要するに観測器械としての感官を生理的心理的効果の係蹄から解放することが、ここに予想される総合的実験科学への歩みを進めるために通過すべき第一関門であろうと思われる。・・・ 寺田寅彦 「感覚と科学」
・・・ついでにもう一歩を進めるならば、電車の切符について起り得る錯誤のあらゆる場合を調査しておくのもいいかと思う。不正な動機から起るものの外に、どれだけ色々の場合があるかを研究し列挙して車掌達の参考に教えておくのも悪くない。事柄が人の「顔」にかか・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・それから一歩を進むれば、震源地の判定というような問題に触れる事にはなるが、更にもう一歩を進めるところまで行く暇のないのが通例である。この専門にとっては、地震というものと地震計の記象とはほとんど同意義である。ある外国の新聞に今回の地震の地震計・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・の準備の道程に覚束ない分厘の歩みを進めるのである。 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・数式は彼の考えを進めるものに使われた必要な道具であった。その道具を彼は遠慮なく昔の数学者や友人のところから借りて来た。これはまさに人の知るとおりである。その道具の使い方がどこまで成効しているかはおそらく未決の問題ではあるまいか。それを決定す・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・初に見た時、やや遠く雲をついて高地の空に聳えていた無線電信の鉄柱が、わたくしの歩みを進めるにつれて次第に近く望まれるようになった。玩具のように小さく見える列車が突然駐って、また走り出すのと、そのあたりの人家の殊に込み合っている様子とで、それ・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・そうして過渡期の日本の社会道徳にそむいて、私の歩を相互に進めることなしに、意志の重みをはじめから監督者たる父母に寄せかけた彼の行ないぶりを快く感じた。そこで彼の依頼を引き受けた。 さっそく妻をやって先方へ話をさせてみると、妻は女の母の挨・・・ 夏目漱石 「手紙」
出典:青空文庫